抄録
かつて薬理学教室名はDepartment of Pharmacology and Toxicologyが普通に使われていた。化学物質は多数あるのに薬ができないのは薬効評価に問題があると思い、薬理学教室を選んだ。薬になる確率の低さを恐れつつも、企業で創薬を目指すことにした。幸いなことに、改良したランダムスクリーニングによって新規化合物に思いがけぬ薬理作用を見出しジルチアゼムにつながった。合成陣には、光学活性体や予想代謝物も造っていただいた。今でいう、ADME実験の手伝いや、一部の毒性試験、安全性薬理試験も行った。作用機序の研究によりCa拮抗作用を冠状動脈で示した。80%の実験は安全性に関わるもので、薬の開発とはこういうものかと印象深かった。
約20年後に、毒性薬理学教室を担当することになった。トキシコロジーへの転進の始まりである。さらに、現在の国立医薬品食品衛生研究所に移ってから、トキシコゲノミクスプロジェクトの代表者を勤めている。当初、17社と国立医薬品食品衛生研究所による5年間の官民共同事業として始まり、現在、大阪の医薬基盤研究所で行われている。目標は、5年間で150化合物(ドロップアウトした化合物を含む)をラットに投与し、肝臓(一部腎)の網羅的なmRNAの変化をアフィメトリックスのチップで測定し、病理や血液生化学的データとともに解析し、医薬品開発の初期段階での安全性予測に役立てるものである。28日投与まであり、用量と時点の多さは他に類を見ない貴重なデータベースである。このプロジェクトは遠藤仁前理事長や土井邦雄先生などにもご協力いただいており、本学会とも関係が深い。現在までの成果の一部を紹介する。