抄録
【目的】クマネズミは人獣共通感染症を媒介する害獣である。その駆除のために殺鼠剤ワルファリン(WAR)が用いられたが、近年WARに耐性を持つクマネズミが東京近郊に増え、問題になっている。本研究ではWARを代謝するチトクロムP450(P450)を中心にクマネズミのWAR耐性機構を明らかにすることを目的とした。【方法】クマネズミは東京周辺で採取し1ヶ月間WAR含有餌を与え、生存個体を耐性とした。感受性クマネズミは小笠原諸島で採取し、系統化した。ビタミンKエポキシド(VKO)還元酵素(VKOR)の活性は肝ミクロソーム(Ms)反応混合液中のVKOをHPLCで測定した。耐性および感受性個体にWARを経口投与し、WARとその代謝物の血中および尿中濃度をHPLCで測定した。さらにMsにおけるWAR水酸化活性を測定した。また耐性個体にP450阻害剤SKF-525A(SKF)とWAR同時投与を行い、生存率を調べた。また肝MsのP450リダクターゼ(fp2)活性を測定した。さらに精製fp2にVKOR活性を調べ、耐性および感受性個体のfp2のVKOR活性を調べた。【結果および考察】WAR経口投与後、感受性個体と比較して耐性個体の血中WAR濃度は低く、尿中WAR代謝物の濃度は高かった。さらに耐性個体の肝MsのWAR水酸化活性も高く、CYP3A2含量も高かった。またSKFとWARの同時投与によって、耐性個体が20~75%死亡したことから、P450によるWAR代謝亢進が耐性機構に関与していると示唆された。fp2活性は感受性より耐性個体で3~8倍高い結果が得られ、耐性におけるP450依存のWAR代謝亢進の一要因となっていると考えられた。また精製fp2にVKOR活性が見られたことから、VKOR活性へのfp2 の関与も示唆された。従ってP450およびfp2の活性が高いことがWAR耐性の原因であると考えられた。