抄録
高濃度の有機物を含む河川水などを塩素処理すると、塩基対置換型の直接変異原性物質の生成することが報告されている。この変異原性物質は光や熱に不安定であり、還元剤の存在で容易に分解するため、社会的関心度の低い毒質であった。しかし、パルプ漂白廃液中の強変異原性ハロゲン化ヒドロキシフラノン(MX)が水道水からも検出され、近年、社会的関心度の高い毒性物質として注目されている。本研究では、直接変異原性物質を含むモデル塩素処理水を調製し、その変異原性の強度に及ぼす脱塩素法を検討した。 既報に従ってフェノールを含む弱酸性の緩衝液に、化合物に対して15倍モル量の次亜塩素酸ナトリウムを加え、1 時間振とうしてモデル塩素処理液を調製した。これに1 mMの亜硫酸ナトリウム溶液の添加または窒素ガスを吹き付けて未反応の塩素を除去し、ジエチルエーテルで振とう抽出し、K・D濃縮装置で1 mℓまで濃縮して試料とした。変異原性試験はTA100株を用いS9 mix非存在下でプレインキュベション法により行い、容量ー反応曲線における初期段階の傾きから変異原性強度を評価した。試料中の反応生成物はキャピラリーGC/MSによって解析した。 モデル塩素処理液に乾燥窒素ガスを静かに5分間吹きつけと、溶液中の残留塩素は全て除去された。コノエーテル抽出物について変異原性試験を行ったところ、680revertants/10μg(出発物質換算)の変異原性強度となった。これに対して、脱塩素剤として亜硫酸ナトリウムを添加した場合、約1/3 程度の変異原性強度が得られた。この変異原性強度の低下をGC/MSで解析したところ、亜硫酸ナトリウムの添加により塩素消毒副生成物のうち、塩素化シクロブテノンやペンテンジオンなどの消失することがわかった。