抄録
【目的】Prostaglandin E2(PGE2)は,腎臓における水と電解質の再吸収や血圧調節などを含む多様な生理学的作用に関与しており,そのreceptorとしてEP1からEP4の4つのサブタイプが知られている。これらのうちEP4 receptorについて,ヒトとラットで発現の報告があるがイヌではみられないことから,ラットとイヌの腎臓における局在を免疫組織化学的に比較した。【方法】通常の方法(10%中性緩衝ホルマリン固定,パラフィン包埋)で作製した無処置ラットおよびイヌの腎臓の組織切片を用い,標識ポリマー法によるEP4 receptorの免疫組織化学的染色を行った。また,傍糸球体細胞における局在を検討するため,レニンを染めるPASあるいはBowie染色とEP4 receptor免疫染色の重染色を施した。【結果と考察】ラット,イヌ共に尿細管では遠位尿細管が最も強い陽性を示し,次いで集合管,乳頭管,ヘンレのループなどが強く陽性であった。これらに比べて近位尿細管は両種共に染色性は弱く,ラットでは特に弱かった。糸球体では両種共に足細胞とボーマン嚢上皮が陽性で,血管内皮とメサンギウム細胞は陰性であった。傍糸球体装置のうち,緻密斑は両種共強い陽性を示したが,傍糸球体細胞はラットでは微弱,イヌではほぼ陰性であった。小葉間動脈では,両種共に内皮細胞と中膜平滑筋の核が陽性であった。このように,ラットとイヌの腎臓におけるEP4 receptorの発現・分布は類似していた。ラットの腎臓において,遠位尿細管と集合管および輸入細動脈にEP4 receptor mRNAの発現が報告されており,イヌの結果も含めて今回の免疫組織化学的検討結果と概ね一致すると考えられた。傍糸球体細胞はラット・イヌ共に発現が弱かったが,強い発現を示した緻密斑と共にPGE2の作用の一つであるレニンの放出に関与していることから,さらに詳細な検討が必要と考えられた。