抄録
血管内皮は血液および血流からの刺激に応じて様々な血管作動性物質を分泌し、血管のホメオスターシスを維持している。動脈硬化進展過程において内皮障害は最初期の変化であり、この時点で改善させることができれば動脈硬化進展は抑制可能である。動脈硬化性疾患は男性に多く、しかも女性よりも若くして発症することが知られている。国内の主な循環器専門施設と共同で、狭心症、および急性心筋梗塞の連続症例を集め検討したところ、男女比は約2:1であり、男性の平均念年齢は65歳、女性は74歳であった。女性の特徴として、閉経後に発症が増加する。したがって、内因性女性ホルモンが動脈硬化進展抑制に作用している可能性がある。最近、閉経前後の女性にエストロゲン補充療法を行うと動脈硬化性疾患の発症率が低下することが報告された(Arch Internal Med. 2006)。我々は、閉経後女性と同年齢の男性に対してエストロゲンを経皮投与し、内皮機能への影響について検討した。その結果、女性では内皮機能の改善を認めたが、男性では変化しなかった。したがって、エストロゲンの内皮への作用に性差が存在する可能性がある。副腎から分泌されるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)は加齢とともに低下する性ステロイドホルモンである。加齢ともに動脈硬化が進展することから、DHEAを中年男性に投与し内皮機能とインスリン感受性におよぼす影響を検討した(double blind placebo control study)。その結果、3ヶ月後には、内皮依存性拡張反応およびインスリン感受性の改善を認めた。このことから、男性に対するDHEA補充は動脈硬化進展抑制作用がある可能性がある。シンポジウムでは性ホルモンと動脈硬化性疾患との関係について、我々の研究結果を含めて解説したい。