抄録
グルタチオン (GSH)が解毒に関与する化合物では,大量投与によるGSHの枯渇が毒性発現の一因となると考えられている。L-Buthionine (S,R)-sulfoximine (BSO)はGSH生合成を阻害することでGSH枯渇を惹起する。BSOによるラットGSH枯渇モデルを用いてGSHが解毒に関与するとされる薬剤について,GSH量が毒性発現に及ぼす影響を検討した。【材料および方法】 9週齡の雄性F344ラットにBSO (20mM)を4日間飲水投与した後, Allyl alcohol (AA, 60 mg/kg, p.o.),Acetaminophen (APAP, 300 mg/kg, p.o.),Bromobenzene (BB, 150 mg/kg, i.p.),Valproic acid (VA, 500 mg/kg, i.p.)を単回投与した。BSOを4日間前処置後に,AA (20 mg/kg),APAP (100 mg/kg),BB (50 mg/kg),VA (500 mg/kg)を同様の投与経路にて4日間反復投与する群も設けた。さらにBSOを前処置せずに, AA,APAP,BB,VAをBSO併用群と同条件で単回,あるいは4日間反復投与する群を別途設けた。投与後に肝臓を採材し,総GSHおよびGSSG量測定,病理学的検査およびGeneChip (Affymetrix, Inc.)を用いた遺伝子発現解析を実施した。【結果および考察】 BSOを4日間投与後に肝臓の総GSHおよびGSSG量を測定した結果,対照群と比べ,それぞれ75%および85%の減少を示したが,肝臓に形態学的な変化は認められなかった。以前から報告のあるAPAPの投与に加え,AAおよび BBの投与でもBSO前処置によるGSH枯渇により肝毒性の増強が確認されたから,GSH含量が肝障害発現に寄与すると示唆された。一方,VAの500 mg/kg投与では単回および4日間反復投与した群において,GSH枯渇に関わらず肝毒性の増強を認めなかったことから,GSH枯渇以外に代謝物産生亢進などの付加因子が肝毒性発現に必要であると推察された。GSH枯渇下における薬剤毎の毒性発現の差異について,遺伝子発現解析結果を含め考察する。