抄録
【目的】種々の肝薬物代謝酵素誘導剤を投与した実験結果が蓄積されてきた今日では,ラット肝臓での薬物代謝酵素誘導に関してはGeneChipを用いた網羅的な遺伝子発現解析で予測が可能である。今回,イヌ肝臓の薬物代謝酵素誘導の評価に網羅的な遺伝子およびタンパク質発現解析を応用し,その有用性について検討した。【方法】イヌ(ビーグル,雄)にphenobarbital (PB, 10→20→30 mg/kg×2/日),clofibrate (CPIB, 25→50→75 mg/kg×2/日)を14日間漸増経口投与した。投与終了後に肝臓を採材し,病理学的検査,薬物代謝酵素活性の測定,GeneChipによる遺伝子発現解析ならびにwestern blotおよび2次元電気泳動(2D-DIGE)によるタンパク質発現解析を実施した。【結果および考察】これまで報告されているように肝細胞肥大(PB,CPIB)と滑面小胞体の増生(PB)およびミトコンドリアの増加(CPIB)を認めた。薬物代謝酵素活性ではPBおよびCPIB投与群でP450含量の増加と,MCD,ECD,PCD活性の上昇が認められた。GeneChip解析では,PBで第I相および第II相酵素関連遺伝子の発現増強を認め,CPIBでは脂肪酸代謝関連遺伝子の発現増強が認められたが,脂肪酸β酸化系遺伝子の誘導は認められなかった。2D-DIGE解析では両化合物でその変動パターンが明確に区別され,GeneChip解析と相関も認められた。遺伝子発現プロファイルと薬物代謝酵素活性の変化とは良い相関がみられたこと,CPIB投与群ではラットの場合とは異なりペルオキシゾームの増生は認められなかったが,GeneChip解析においても脂肪酸β酸化系酵素遺伝子の誘導は認められなかったことから,薬物代謝酵素誘導や形態学的変化の違いがGeneChip解析により予測可能と考えられた。以上の結果より,イヌにおいても遺伝子/タンパク質発現解析データを蓄積することで,薬物代謝酵素誘導および誘導に伴う病理形態学的変化の予測が可能になるものと判断する。