抄録
【目的】ブチル 2,3-エポキシプロピル エーテルはエポキシ樹脂などの反応性希釈剤、含塩素化合物の安定剤など広く用いられている。変異原性を示す物質であり、長期混水試験で発がん性の報告はあるものの、実際の労働環境での主たる暴露経路と考えられる吸入による長期毒性試験の報告はない。我々は同物質の長期吸入毒性を明らかにする目的で吸入暴露による2年間の試験を実施した。【方法】F344ラットとBDF1マウスの雌雄各群50匹にブチル 2,3-エポキシプロピル エーテル(和光試薬1級)をラットは雌雄とも10、30及び90 ppm(公比3)、マウスは雌雄とも5、15及び45 ppm(公比3)の濃度で、1日6時間、1週5日間、104週間、全身暴露した。一般状態の観察、体重及び摂餌量の測定、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、剖検、臓器重量測定及び病理組織学的検査を行った。【結果及び考察】ラットでは、雌雄とも90 ppm群で生存率が低値を示し、死因は鼻腔の腫瘍であった。90 ppm群では雌雄に扁平上皮癌の発生がみられた。また、雄に扁平上皮乳頭腫、鼻腔神経上皮腫、雌に腺扁平上皮癌、鼻腔神経上皮腫及び肉腫の発生もあった。さらに、30 ppm群では雌雄とも鼻腔の腺腫の発生がみられた。マウスでは、雌雄とも生存率に差異を認めなかったが、45 ppm群では体重が低値であった。腫瘍性病変として、雌雄とも鼻腔に血管腫の発生が認められた。血管腫が発生した濃度は、雄は5 ppm以上、雌は15 ppm以上であった。45 ppm群の雌雄に少数ではあるが、鼻腔の扁平上皮癌の発生が認められた。腫瘍以外の鼻腔病変は、ラットでは呼吸上皮の扁平上皮化生等が雌雄の30 ppm以上の群、マウスでは、呼吸部移行上皮の結節状過形成等が雌雄の15 ppm以上の群で観察された。本試験は厚生労働省の委託により実施した。