抄録
薬物が引き起こすQT延長症候群を調べるため,今日までに多くの試験方法が確立され,実施されている.In vitroでの電気生理試験において現在広く行われている手法としては,hERG発現細胞を用いた電流抑制作用を評価するものや,モルモット乳頭筋標本を用いた活動電位持続時間(APD)の延長を検出する実験が挙げられる.しかし,これら両試験間において,作用の検出に相関の得られない薬物も存在し,偽陽性・偽陰性として,薬物によるQT延長作用を調べるうえで大きな問題となっている.今回検討したモルモットの単離心室筋細胞を用いたパッチクランプ法による実験では,活動電位を形成するすべてのイオンチャネルに対して,個別に薬物の作用を確認することが可能であり,複数種のイオンチャネルへの影響やイオンチャネル間での相互作用なども考察することができる.またモルモットの心室筋細胞には,人間の心筋細胞に存在するイオンチャネルのほとんどが発現しているということからも,非臨床段階の試験において,薬物によって引き起こされるQT延長作用を検出するには有用な標本であると考えた.本実験では,QT延長を誘発することが広く知られている数種の化合物を,hERG発現細胞及び単離モルモット心室筋細胞を用いたパッチクランプ法とモルモット乳頭筋標本を用いた微小電極法により電気生理学的に評価し,その作用の相関性を比較した.今回得られた結果から,モルモットの単離心室筋細胞を用いたパッチクランプ法試験が,薬物によるQT延長作用を評価する安全性薬理試験において,非常に有効な手法であることが示めされた.