抄録
【目的】肝機能不全を診断する際には、多くの血液生化学的検査が用いられる。肝細胞障害の指標としては、ASTあるいはALTなどの肝逸脱酵素がその代表例である。一方、肝機能不全の際には血液凝固異常をきたすことも知られており、血漿中のフィブリノーゲン濃度あるいは血液凝固試験からも肝機能不全が推定可能である。今回、我々はトキシコゲノミクスプロジェクト(TGP)で蓄積された遺伝子発現及び毒性学的データベースの中から血液凝固系に異常をきたした8化合物(クロフィブラート、オメプラゾール、エチオニン、チオアセタミド、ベンズブロマロン、プロピルチオウラシル、WY-14643、アミオダロン)を選択し、ラットに反復投与した際のデータを用いてその遺伝子発現変化を検証した。【方法】各化合物は3用量段階でラットに投与し、3, 7, 14及び28日間の反復投与24時間後に剖検し、遺伝子及び一般的な毒性学的データを得た。網羅的遺伝子発現解析にはAffymetrix Rat 230Aマイクロアレイを用いた。【結果および考察】血液学的検査ではAPTT及びPT時間の延長、血清中のフィブリノーゲン濃度低下がみられ、病理組織学的には壊死を伴わない軽度な肝細胞の変化がみられたが、 血液生化学的検査ではASTあるいはALTを始めとした肝逸脱酵素に著変は認められなかった。一方、遺伝子発現解析では血液凝固カスケード、ストレスなどに関与する遺伝子群が変動していた。これらの遺伝子群は肝機能不全及び薬物による肝毒性に関与している可能性が考えられる。