抄録
マイクロアレイ実験では,十分なN数を確保出来ない場合がある。N数が少なくなるほど,抽出した遺伝子の発現変動が,真実なのかノイズなのかを判断することは非常に難しい。また,NCBI GEOなどの大規模な公共データベースを参照する場合,それらのデータは,多様な測定システム(施設差,サンプル調製の差,実験者の差,スキャナーの差等)によって収集されているために,例え同じ種類のマイクロアレイであったとしても,相互参照を行うことは殆んど不可能である。
そこで,我々は,遺伝子発現値の順位に着目した解析方法の検討を行い,NCBI GEOに登録されているアレイデータを用いて,N数が少ない場合,および実験が異なる場合の解析を試みた。遺伝子発現値の順位にいくつかの補正を行った値(Rank補正値)を,ハウスキーピング遺伝子(GAPDH,BACTIN,B2M,PPIA,
RPL13A,SDHA)を用いて検証したところ,Rank補正値は,Per Chip補正値と比較して,個々のアレイ間での値のバラツキが小さいことが確認された。続いて,ラットのPPARα活性化化合物の実験データを用いて薬物投与後の変動遺伝子を,Rank補正値を用いて抽出した結果,Fold change(FC)法による抽出と比較して,既知のマーカー遺伝子の抽出効率が高いことを確認した。これは,Rank補正値を用いると,FC法ではノイズとなりやすい低発現領域の遺伝子変動の抽出感度が抑えられたためだと考えられた。これらの結果から,遺伝子発現値の順位は、マイクロアレイデータの解析対象の一つとなりうると考えられた。
現在,抽出された遺伝子について,毒性に関与している可能性があるいくつかの既知パスウェイを用いた解析を行っており,その結果についても報告する。