抄録
【目的】CYP1A1 は多環芳香族炭化水素類 (PAHs) の代謝的活性化に関与する薬物代謝酵素である。CYP1A1 により代謝された PAHs は究極の発がん物質となり DNA に損傷を引き起こす。CYP1A1 の誘導機構は PAHs による芳香族炭化水素受容体 (AHR) を介した機構が知られている。これまでの知見より,高コレステロール食を摂取すると PAHs の発がんリスクが上昇することが報告されている。Liver X receptor α (LXRα) はコレステロールの代謝物であるオキシステロールにより活性化される核内受容体である。我々は,高コレステロール食摂取による PAHs の発がんリスクの増強に LXRα による CYP1A1 の誘導機構が関与していると考えた。そこで本研究では,LXRα による CYP1A1 遺伝子の新規誘導機構を解明し,本機構が PAHs の毒性に関与するか否か解明することを目的とした.
【方法】ルシフェラーゼアッセイにはヒト肝がん由来 HepG2 細胞を用いた.ゲルシフトアッセイには in vitro translation にて合成した LXRα および retinoid X receptor α (RXRα) を用いた.
【結果および考察】CYP1A1 遺伝子の5’-上流領域を組み込んだレポータープラスミドを用いて,ルシフェラーゼアッセイを行ったところ LXRα の応答配列は CYP1A1 遺伝子のプロモーター領域に存在する direct repeat 4 (DR4) であることが分かった。次に,ゲルシフトアッセイにて DR4 に LXRα/RXRα ヘテロダイマーが結合することを確認した。また,PAHs および LXRα のリガンドを共処置することにより,単独で処置した場合と比較して CYP1A1 が相乗的に誘導されることを明らかにした。さらに,LXRαのリガンドは PAHs 依存的なアポトーシスを増強することを見出した。以上のことから,CYP1A1 遺伝子の発現制御に LXRαが関与することを解明し,本機構により PAHs の毒性が増強されることが示唆された。