抄録
発がん性物質の多くはDNA損傷作用を有す事から、そのがん原性の予測については、微生物や細胞を用いる遺伝毒性(変異原性)試験によってなされてきた。しかし近年、発がん性を示す物質の中にはプロモーターに代表されるような遺伝毒性を示さない物質も見出されるようになり、多段階発がんの全過程を含むin vitro代替試験法の開発が望まれている。
現段階で最も有望視されている代替試験法として、細胞を用いる形質転換試験がある。ECVAM(欧州代替法評価センター)では、シリアンハムスター初代胎児細胞によるSHE細胞の系と株細胞を用いるBALB/3T3細胞の形質転換試験についてプレバリデーションをすすめている。一方OECDでは、SHE細胞の系についてのガイドライン案が示され、各国のコメントが収集されると同時に、review paperも現在3次案が示されている状況である。この間、わが国ではBALB/3T3細胞を用いた改良法やras遺伝子を導入したBhas細胞を用いる方法などについて評価試験を実施し、欧米で実施されているSHE 細胞の方法よりも優れる事を報告してきた。
OECDのreview paperによれば、形質転換試験は遺伝毒性試験に比べて、感度、 特異性、 予測性等の点で優れる。 そして、遺伝毒性試験に比べ偽陰性が少ない。また、形質転換試験は(特にMLAに比べ)擬陽性が少ない事が報告されている。一方、非変異発がん物質の検出に関しては、SHE 細胞ではAneugenの検出に有効で、BALB/3T3細胞は2段階試験が可能でプロモータ-の検出に優れている事が知られている。 形質転換試験のデータ-を整理すると、in vitro形質転換試験とin vivo長期発がん試験データーの間には良い相関がみられ、化学物質の発ガン性を評価するin vitro短期アッセイ系として優れた試験系である。