日本トキシコロジー学会学術年会
第34回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: SY1-4
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薬剤性腎障害の発症機序と防御
造影剤腎障害の発現機序
*矢野 貴久伊藤 善規大石 了三
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抄録

ヨード造影剤は、血管造影をはじめとする画像診断において必要不可欠な体内診断用薬であり、その使用頻度は増加の一途を辿っている。その一方で、造影剤腎症と呼ばれる急性の腎障害を引き起こすことが広く知られており、造影剤による腎障害は代表的な薬剤性腎障害の一つとなっている。造影剤腎障害の発現機序には、腎血流量の低下や腎細胞への直接的な障害作用が関与すると言われているが、これまでそれらの詳細は明らかにされていなかった。加えて、造影剤腎障害の予防を目的とした臨床研究が数多くなされてきたが、腎血流改善薬等を用いた研究ではいずれも有効性が証明されておらず、現在臨床で行なわれている予防策は、輸液を用いた排泄促進のみである。そこで我々は、造影剤による腎尿細管細胞への直接的な障害作用に着目し、造影剤腎障害の発現機序の解明を行うと共に、予防策について検討を行ってきた。
その結果、造影剤は腎細胞において、スフィンゴ脂質であるセラミドの de novo合成を活性化し、Aktリン酸化ならびにcyclic AMP (cAMP)-responsive element binding protein(CREB)のリン酸化を抑制し、Bax / Bcl-2の発現変化や、カスパーゼ-9およびカスパーゼ-3活性化に基づくアポトーシスを引き起こすことが明らかとなった。一方、プロスタサイクリンのアナログであるベラプロストは、腎細胞内のcAMPを上昇させ、造影剤によるBax / Bcl-2の発現変化ならびに、カスパーゼの活性化をいずれも抑制し、in vitro実験系のみならず、in vivo実験系においても造影剤による腎障害発現を保護した。
本知見は、造影剤腎障害の発現機序を明らかにすると共に、ベラプロストが造影剤腎障害に対する有効な予防薬になりうる可能性を示したものである。

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© 2007 日本毒性学会
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