日本トキシコロジー学会学術年会
第34回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: SY1-5
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薬剤性腎障害の発症機序と防御
抗癌剤シスプラチンによる急性腎不全および尿細管間質線維化の発症機序
*河合 悦子玄番 宗一
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抄録

シスプラチンは優れた抗悪性腫瘍作用を示すが、副作用として重篤な急性腎不全を引き起こすことから、治療が制限される場合がある。活性酸素はこのような急性腎不全発症因子のひとつと考えられているが、その産生経路の詳細についてはまだ不明な点が多い。そこで、シスプラチンによる活性酸素産生経路およびその産生に対する腎細胞内カルシウムの役割について検討した。 シスプラチンの主な作用部位である近位尿細管の性質を有する腎尿細管上皮細胞株LLC-PK1にシスプラチンを曝露すると、細胞内カルシウム濃度は増大し、おくれて細胞障害の指標である細胞から培地へのLDH遊離が増大した。細胞内カルシウムキレーターBAPTA-AMは、シスプラチンによる細胞内カルシウム濃度の上昇のみならず細胞障害も抑制し、さらにシスプラチンによる活性酸素産生増大も抑制した。しかし、抗酸化剤は細胞障害を軽減したが、細胞内カルシウム濃度の上昇には影響しなかった。次に、活性酸素産生経路へのNADPH oxidaseの関与について調べた。NADPH oxidase阻害剤DPIは、シスプラチンによる活性酸素産生増大を抑制した。これらのことから、腎尿細管上皮細胞LLC-PK1障害において、シスプラチンは細胞内カルシウム濃度の上昇によるNADPH oxidaseの活性化を介して活性酸素産生を増大させることが示唆される。 シスプラチンは急性腎不全の回復後に尿細管間質線維化を引き起こすことを見出だした。シスプラチンは、ラットへの投与3日後に尿細管障害の指標である尿中へのNAG排泄量を増大させたが、14日後には回復した。14日目(急性腎不全回復)以降から、尿細管間質の線維化が起こり、56日目まで持続した。シスプラチンによる線維化は抗酸化剤で抑制された。このことから、シスプラチンによる尿細管間質繊維化発症にも活性酸素が重要な役割を担うことが示唆される。

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© 2007 日本毒性学会
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