抄録
疾患や健康影響の発現や増悪を規定する二大要因は遺伝要因と環境要因である。また、環境要因として、「生活環境」とともに「生活習慣」も重要な位置を占めている。近年、糖尿病、脂肪肝、肥満、高脂血症、等の「生活習慣病」やアレルギー疾患(花粉症、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、等)を代表とする「生活環境病」は激増しており、国民の健康と医療経済に深刻な影響を与えている。これらの増加は急激であり、遺伝要因よりむしろ環境要因の急激な変化がその原因として重要な役割を演じていると考えられている。一方、食環境、衛生環境、社会・生活環境、水・大気・土壌環境等を含む様々な環境において、「多彩な環境汚染物質の低濃度曝露」は確実に進展している。しかし、身近な環境汚染物質の曝露が「生活習慣病」や「生活環境病」に与える影響に関しては、現在まで、実験的検証は乏しかったのが実情である。デイーゼルエンジン自動車に由来する排気やそれに含まれる成分は、現代社会に氾濫している大気環境汚染物質の代表的存在である。われわれは、これまでに、デイーゼル排気やそれに含まれる成分がアレルギー疾患を代表とする「生活環境病」を増悪しうることを実験的に検証してきた。今回の発表では、デイーゼル排気微粒子が「生活環境病」とともに「生活習慣病」(肥満に伴う脂肪肝や高脂血症)を増悪しうる事実について紹介したい。また、「生活習慣病」増悪における酸化ストレスやカルボニルストレスの役割やこれらをターゲットとした予防対策の可能性についても最新知見を紹介したい。