抄録
内分泌療法薬(ホルモン療法薬)の標的は理論的にはホルモンの標的組織の全てと考えられるが、がん治療の薬剤として実際に臨床使用されているのは、乳癌、子宮癌、前立腺癌などのホルモン依存性の生殖器系腫瘍にほぼ限られている。乳癌や子宮癌には抗エストロゲン剤(抗Estと略記)、アロマターゼ阻害剤 (ArmI)、LHRHアゴニスト (LHRHago)及びLHRHアンタゴニスト (LHRHant)が、また、前立腺癌には抗アンドロゲン剤 (抗And)、LHRHago及びLHRHantが市販あるいは開発中である。BR これらの薬剤の毒性試験で発現する変化はホルモンを介した標的臓器の変化、すなわち薬理作用に起因した変化とそれによる二次的な組織変化がほとんどである。抗EstやArmI投与ではエストロゲンの作用低下によるラットやイヌの子宮などの副生殖器の萎縮が、ArmI投与ではイヌ精巣間細胞過形成が生ずる。一方、LHRHagoの反復投与や長期曝露では下垂体ゴナドトロピンや性腺ホルモンの産生低下に起因した雌雄生殖器系の萎縮に加えて、持続刺激でラット下垂体腫瘍が発生する。抗Andではラットで精嚢・前立腺などの萎縮に加えて精巣間細胞腫、子宮癌、副腎皮質細胞肥大が発生するが、精巣間細胞腫はフィードバックで上昇したLHの刺激に起因する。子宮では内膜腺が拡張し、抗Andの薬理作用が腫瘍化に関与する。また、ラット副腎肥大は肝臓でのコルチコステロン(CS)結合蛋白産生増加によって血漿中フリーCSが低下しACTH産生が亢進して生じる。これらの機作解明試験成績によりいずれの増殖性変化もヒトへの外挿性は乏しいものと推測されている。BR ホルモン療法薬は一般的には特別な毒性試験は実施されていないが、発現変化のメカニズム解析を通じたヒトへの外挿性評価がその安全性の推測に重要である。