日本トキシコロジー学会学術年会
第34回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: P-64
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脳神経系
環境汚染化学物質トリブチルスズによるAMP-activated protein kinaseを介した神経細胞死
*古武 弥一郎中津 祐介太田 茂
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抄録
トリブチルスズ (TBT) は船底塗料等に使用されており、環境汚染化学物質のひとつとして考えられている。TBT毒性のひとつとして神経毒性が報告されているが、その詳細なメカニズムは明らかにされていない。我々は既に大脳皮質初代培養神経細胞において、生体内から検出される濃度に近い500 nM TBTが、神経伝達物質グルタミン酸の過剰な放出を介してグルタミン酸受容体を活性化し、ネクローシスを誘導することを報告している (Toxicol. Sci. (2006))。 そこで本研究では、500 nM TBTによるグルタミン酸放出メカニズムを解明するため、研究を行った。TBTは時間依存的に細胞間隙グルタミン酸濃度を上昇させ、グルタミン酸受容体アンタゴニストがTBTによる細胞死を軽減することを確認した。500 nM TBT添加30分において急激なATP減少が認められたため、ATP減少に伴って活性化されるAMP-activated protein kinase (AMPK) に着目したところ、AMPK阻害剤compound Cによりグルタミン酸上昇は有意に抑制され、細胞死も完全に抑制された。また、ATP減少に反応して早い時間におけるAMPKの活性化が認められた。以上の結果より、500 nM TBTがATPを減少させ、AMPKの活性化を介してグルタミン酸放出を引き起こすことが明らかとなった。また、TBTによりオートファジーのマーカーであるLC3-IIの発現上昇が認められ、この発現上昇はcompound Cにより抑制されたことから、TBTによるAMPKの活性化はオートファジーによる細胞死も引き起こすことが示唆される。以上の結果より、TBTはAMPKの活性化を介して、グルタミン酸放出を介した「ネクローシス」と、「オートファジー」の2種類の細胞死を引き起こすことが示唆される。
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© 2007 日本毒性学会
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