抄録
【目的】膜脂質過酸化により産生される毒性の高いアルデヒドである4-ヒドロキシノネナール(HNE)は、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患への関与が指摘されているが、その詳細については不明な点も多く残されている。そこで、中枢神経系におけるHNE誘発神経細胞死発現機構の解明および保護因子の探索を目的として、マウス海馬由来神経様細胞であるHT22細胞において、HNEおよび過酸化水素による細胞死誘導機構を比較検討した。
【方法】細胞死の判定にはMTT法またはLDH法を、各種タンパク質発現量の検討にはWestern blot法を、細胞内Ca2+濃度測定にはflow cytometry法を用いた。
【結果・考察】HT22細胞をHNEまたは過酸化水素で処置したところ、生存率は濃度および時間依存的に減少した。HNE曝露により、細胞死に先立って、HNE付加タンパク質の生成が認められたが、過酸化水素曝露細胞においては全く認められなかった。N-acetyl-L-cysteine(NAC)は、HNE誘発細胞死を濃度依存的に抑制し、100μMではほぼ完全に細胞を保護したが、過酸化水素誘発細胞死に対しては影響を及ぼさなかった。また、同濃度のNACは、HNE付加タンパク質の生成も抑制した。これに対し、過酸化水素曝露によっては、核におけるNF-κB p65、p50およびDJ-1の早期の上昇とその後の細胞内Ca2+濃度の上昇が認められたが、これらは、いずれもHNE曝露細胞においては認められなかった。また、HT22細胞においてグルタミン酸誘発細胞死を抑制した塩化コバルトは、過酸化水素誘発細胞死を抑制したが、HNE誘発細胞死には影響を及ぼさなかった。以上より、HNEは、過酸化水素とはその細胞死誘導機構が大きく異なり、過酸化水素誘発細胞死にはDJ-1、NF-κBおよび細胞内Ca2+濃度の上昇が関与するが、HNE誘発細胞死にはHNE付加タンパク質の生成および細胞内におけるSH基の障害が重要な役割を演ずることが示唆された。