主催: 日本トキシコロジー学会
【目的】不整脈誘発に関与する薬物のQT間隔延長作用の発生機序として,心筋細胞におけるカリウムチャネル電流のブロックの他に,カリウムチャネル蛋白質の細胞膜移行(トラフィッキング)の阻害が注目されている.本研究では,ヒト電位依存型カリウムチャネル(hERG)を高発現させたHEK293細胞(hERG細胞)を用い,hERG蛋白質のトラフィッキングおよびhERG電流(カリウムチャネル電流)に対するゲルダナマイシン,E-4031,およびチオリダジンの作用を比較検討した.
【方法】ゲルダナマイシン,E-4031,またはチオリダジンを含む培地でhERG細胞を24時間培養し,細胞のhERG蛋白質の発現量をウェスタンブロッティング法により検討した.また,各薬物をhERG細胞に10分間灌流適用した後,hERG電流をホールセルクランプ法により測定した.
【結果】ゲルダナマイシンはhERG蛋白質のトラフィッキングを阻害したが,hERG電流には影響を与えなかった.一方,E-4031はhERG蛋白質のトラフィッキングには影響を与えなかったが,hERG電流を阻害した.チオリダジンは,hERG蛋白質のトラフィッキングおよびhERG電流の両方を阻害した.本研究の結果より,従来のhERG電流試験だけでは薬物のhERG蛋白に及ぼす作用を捉えることは出来ないことが示された.薬物のQT間隔延長作用を予測するためには,hERG電流試験と併せてhERG蛋白質のトラフィッキングに対する影響を検討することが重要であると思われる.