抄録
目的:多くの施設では,げっ歯類を用いる毒性試験での給餌条件を飽食としている。しかしがん原性試験のように生存率が試験評価に大きく影響する試験では,生存率を向上させるため制限給餌での実施が試みられている。これまでの検討から,給餌条件の違いはラットの摂食時間や摂餌量を変化させ,行動やエネルギーの摂取状況に大きく関与すると考えられた。そこで今回,制限給餌及び飽食条件で飼育したラットの肝の遺伝子発現の日内変動を,DNAマイクロアレイを用いて解析した。
方法:雄ラット(Crl:CD(SD))を6週齢で導入し,制限給餌と飽食の2つの群に分けた。動物室は午前7時~午後7時を点灯時間とし,給餌は午前9時~9時30分の間に実施した。制限給餌群の給餌量は21g/dayとした。2週間の検疫・馴化飼育の後に実験を開始し,14日間にわたって体重,摂餌量を毎日測定した。14日目は給餌前,給餌4,8,16時間後にも体重と摂餌量を測定し,肝臓を採取した。採取した肝臓からRNAを抽出し,Rat Genome 230 2.0アレイ(Affymetrix社)を用いて約3万遺伝子の発現量を測定した。
結果及び考察:制限給餌群では摂餌量が21g/day,体重増加が4.2g/dayであった。飽食群では摂餌量が28g/day,体重増加が7.4g/dayであった。14日目の摂餌量測定からは,制限給餌群の摂餌時間帯は明期(給餌直後から夕方)であり,飽食群は暗期(夕方から翌朝)であることが示された。遺伝子発現では,サーカディアンリズム遺伝子や脂質代謝遺伝子の多くが,制限給餌群と飽食群で全く異なる日内変動パターンを示した。これらの結果より,摂餌条件の違いがラットの摂食行動を変化させ,それにともなって生体内時計遺伝子の発現プロファイルやエネルギー代謝の日内変動を変化させたものと結論付けた。