抄録
動物用医薬品は、専ら動物に使用されることを目的とし、薬事法に基づいて農林水産大臣が品目ごとに製造販売を承認している。家畜、水産養殖動物等の産業動物に使用するものと犬・猫等に使用するものの2つに大別され、産業用の動物用医薬品は、群飼育された多数の動物に同時に使用する場合があるため、これらが使用された放牧地や養殖場の他に、投与された動物の糞尿等を経て環境中に放出された場合に、生態系に及ぼす影響を評価し、重大な影響が生じないように管理する必要がある。実例として、動物用駆虫剤が投与後糞中に排泄され、糞分解性昆虫が駆除された結果、糞が長期にわたり分解されなかったという海外の報告がある。
現在、新動物用医薬品の製造販売承認審査の際に環境に配慮した使用方法とすることが求められている。また、既存の動物用医薬品については再評価制度の中で環境影響に着目した文献調査が行われている。
また、人用医薬品におけるICHのように、動物用医薬品には日米EUの政府及び企業団体を正メンバーとするVICH(動物用医薬品承認審査資料の調和に関する国際協力)という活動があり、この中で動物用医薬品の環境毒性/環境影響評価ガイダンス文書が作成された。本文書においては、「環境」を畜舎・水産養殖施設以外の全ての場所、「影響」を環境中に生息する生物・生態系に対する有害作用とし、影響の範囲・程度が許容できるか否かを判断する評価基準が示され、第I相(環境導入経路と導入量について使用方法等から推測して評価する段階)と第II相(実際に試験を実施しその成績に基づいて評価する段階)の2相からなる段階的評価が採用されている。本文書に基づく評価が欧米では既に実施されており、日本においても今後実施されていく予定である。