抄録
【緒言】パプリカ色素は既存添加物として多くの食品に使用されている。これまでの安全性試験の結果としては、種々の変異原性試験で何れも陰性を示し、ラットを用いた13週間亜慢性毒性試験では、血清中の総コレステロール値の軽度な増加が雌雄ともに認められたものの、明らかな毒性変化は認められなかった。そこで今回、さらなる長期間摂取の安全性を確認する目的で、ラットを用いた52週間反復経口投与試験を行った。【方法】被験物質の投与用量は亜慢性毒性試験の結果に基づき、雌雄とも最高用量を5%とし、以下2.5、1.25、0.62及び0%の各用量に設定した。各用量でパプリカ色素を粉末基礎飼料に混じ、雌雄、5週齢のF344ラット各群10匹に52週間自由に摂取させた。投与期間中は体重及び摂餌量を測定し、投与終了後はエーテル麻酔下にて採血し、血液学的及び血清生化学的検査を行った。また、剖検時には主要臓器の重量を測定した後、病理組織学的検査を行った。【結果】試験期間中1.25%群で雄1匹の死亡が確認されたが、死因は不明であった。体重および摂餌量は投与期間を通じて群間に差は認められず、体重当りの被験物質摂取量は用量相関性をもって増加した。血液学的および血清生化学的検査では投与に起因した明らかな変化は認められなかった。また、臓器相対重量に顕著な変化は認められなかった。病理組織学的検査では、雄の5%群で軽度な肝細胞空胞化が認められ、その発生頻度は対照群に比して有意に高かった。【結論】パプリカ色素の52週間反復経口投与により、雄の5%群で軽度な肝細胞空胞化が認められたことから、本実験条件下における雄の無影響量(NOEL)は2.5%(1253 mg/kg/day)、無毒性量(NOAEL)は5%(2388 mg/kg/day)と考えられた。一方、雌では何れの群にも投与に起因した明らかな毒性変化は観察されなかったことから、雌のNOEL は5%(2826 mg/kg/day)と判断した。