日本トキシコロジー学会学術年会
第35回日本トキシコロジー学会学術年会
選択された号の論文の292件中1~50を表示しています
特別講演
特別講演 1
  • 林 裕造
    セッションID: PL-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     トキシコロジーを中心とする関連科学の進歩を基盤に生活関連物質の安全性確保の体制は急速に整備され、特に食品関連物質については、リスクアナリシスの適用により、消費者を含めたすべての関係者による安全性確保に向けた協力も進められている。
     一方、科学的知見に基づく安全性の判断あるいは行政的措置に対して、医薬品を除き、社会的な納得が得られない事例も少なくない。その理由のひとつとして、行政的措置を決定する際の科学的知見の活用、言い換えると、レギュラトリーサイエンスによる判断が不適切であった点があげられる。
     レギュラトリーサイエンスは「行政による規制措置についての意志決定の根拠となる科学」であり(内山充)、化学物質の安全性評価の例では、科学的知見の不確実性を補って、科学的/社会的に適切な行政的措置を決定するための論理であるといえる。従って、レギュラトリーサイエンスはリスクアナリシスを効果的に適用する際の不可欠な分野 discipline といえる。本講演では、化学物質の小児に対する有害影響評価を中心に、安全性行政におけるレギュラトリーサイエンスの意義を考えてみたい。
     化学物質の有害影響は、従来、成人を対象に検討されてきたが、近年、小児への影響評価が国際的に重視されている。医薬品のみでなく、食品関連物質についても許容一日摂取量(ADI)、耐用一日摂取量(TDI)を成人と小児の間で区別する事例が多い。化学物質に対する小児の反応の特異性は、体重、基礎代謝等の生理的要因の他に、身体の急速な発育および諸器官機能の分化の状況が関与している。これらの問題についての一般的な知見をWHOの資料を中心に紹介する。
     トキシコロジーは、先端技術を背景に発展しているが、技術的課題に集中することなく、レギュラトリーサイエンスの立場から、社会貢献に向けた研究の方向性を見直す時期にきているように思われる。
特別講演 2
  • Timothy D Anderson, K. Nasir Khan, Mark E Hurtt
    セッションID: PL-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    Differences in drug response in patients of various ages including juveniles and elderly are common, often leading to challenges in optimizing dosages and duration of use. For example, developmental changes in renal function can dramatically alter the plasma clearance of compounds with extensive renal elimination and thus can enhance renal and systemic toxicity of these drugs. Preclinical and clinical research of new therapeutics is typically focused on adults, which provide little relevant information for younger subjects especially those who are still going through skeletal and organ development. The organs in the pediatric population that can be most susceptible are lungs, brain, kidneys and the immune, skeletal, and reproductive systems. Considering that significant differences exist between adults and juvenile populations that may affect drug safety, major regulatory agencies around the world are encouraging and sometimes requiring companies to generate preclinical juvenile animal data to predict for potential drug toxicity in children. However, the juvenile animal data can only be useful to the pediatric human population if evaluated in the most appropriate species at the most relevant age considering comparability of specific organ system development in question. The presentation will focus on reviewing species-specific developmental schedules for specific target organs and relevance of preclinical data in the design and conduct of clinical pediatric studies.
特別講演 3
  • Korach Kenneth S., Couse John F., Curtis-Hewitt Sylvia, Walker Vickie ...
    セッションID: PL-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    Estrogen receptors (ER) are thought to play a crucial role in development, reproduction, carcinogenesis and normal physiology. The activity of agents which alter this normal functionality will manifest as disease and endocrine related disorders. Estrogen action occurs through several mechanisms involving ligand dependent receptor action, as well as ligand independent mechanisms which influence receptor mediated activity but not involving ligand binding. Alterations to receptor activity can occur through the influence of environmental agents on modulatory activities of coactivators or other intracellular signaling pathways associated with hormonal effects and receptors activities. Thus, direct interactions of an environmental compound with the receptor may not be required in order to produce some alterations in activity. Development of knock out mice using gene targeting produced lines of mice homozygous for the disrupted ERα (αERKO) and ERβ genes (βERKO) for the in vivo evaluation of the toxicity and endocrine disrupting activity of known environmental agents; in addition to the determination of whether the activity is receptor dependent and receptor selective. Phenotypes of these mice have shown differential receptor dependence in a number of tissues of both males and females. They were used to demonstrate that toxicity of different compounds in both males and females is receptor mediated by different receptors. Future studies using additional types of endocrine disrupting chemicals should be helpful in determining the sites and mechanistic affects of these chemicals.
子どもシンポジウム
子どもシンポジウム 1
子ども・胎児の肝障害の基礎と臨床
  • 伊藤 哲哉
    セッションID: CS1-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    先天性代謝異常症とは、遺伝子変異による酵素異常などによってその代謝経 路が障害 され、酵素反応の基質となる物質の蓄積、生成物の欠乏、側副代謝 経路による代謝産 物の増加などによって様々な症状を示すが、その程度や傷 害される代謝経路によって は全く無症状である場合も存在する。ピリミジン 分解に関与するDihydropyrimidine dehydrogenase (DPD)、 Dihydropyrimidinase (DHD)についてもその酵素欠損症が存在 し、けいれん や自閉症などを呈することが報告されているが、この酵素欠損患者の多 くは 無症状で経過することも知られている。しかしこれらの酵素欠損保因者にピ リミ ジン系抗癌剤である5-fluorouracilが投与されると致死的副作用を生じ る可能性があ る。近年同様の酵素の一種であるβ-ureidopropionaseの欠損 症も報告され、今後注意 が必要である。 第3世代経口セフェム系抗生剤に分類されるcefteram-pivoxil、 cefcapene-pivoxil、 cefditren-pivoxilはグラム陽性菌、陰性菌にも安定し た抗菌力を持ち、ペニシリン耐 性肺炎球菌などにも効果があることから、難 治性中耳炎などの治療に推奨されてい る。これらはエステル型プロドラッグ で腸管壁において活性型抗生剤とピバリン酸に 分解され抗菌力を発揮する が、この際産生されたピバリン酸はカルニチン抱合を受け 尿中へ排泄され る。カルニチンは長鎖脂肪酸をミトコンドリアに輸送しβ酸化へ導く 際に必 要な物質で、β酸化によるエネルギー産生やミトコンドリア機能の維持に重 要 な役割を果たしている。このため、これら抗生剤の長期投与によりカルニ チン欠乏を 生じ、低ケトン性低血糖症、けいれん、意識障害を呈することが 知られている。 これらの薬剤代謝に対し自験例も含め副作用の危険性などについて報告する。
  • 瀧谷 公隆
    セッションID: CS1-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】非アルコール性脂肪肝は、肝障害をおこすほどのアルコール摂取がないのにもかかわらず、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積した状態である。脂肪肝に炎症・線維化が加わり、慢性的な肝機能異常を呈する疾患を非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)と呼ぶ。小児科領域においてもNASHは散見されるため、今後注意するべき疾患である。抗酸化能を有するビタミンEはNASHに効果を認めるが、その詳細なメカニズムは不明である。今回我々は、脂肪肝モデルであるメチオニン・コリン制限食ラット(MCDラット)にビタミンEを投与し、肝障害・炎症・線維化・過酸化脂質障害に対する効果を検討し、作用メカニズムの解明を試みた。 【方法および結果】Wistarラット(4週齢,雄)を1)対照食群、2)対照食+ビタミンE過剰群、3)MCD食単独群、4)MCD食+ビタミンE過剰群の4群に分けて、各々の飼料を4週間摂取させた。MCD食群(単独群およびビタミンE過剰群)の肝組織は、脂肪滴の蓄積、中心静脈周囲の炎症と線維化を認めたが、ビタミンE投与による組織の改善は認めなかった。MCD食単独群において、ビタミンE輸送タンパク質(α-tocopherol transfer protein: α-TTP)遺伝子発現の低下を認めた。Western blot法で抗4-HNE(4-hydroxy-2-nonenal)抗体付加蛋白を検討したところ、ビタミンE投与にて改善がみられた。また過酸化脂質物質であるTBARS濃度(肝臓)は、ビタミンEにより抑制されていた。 【考察】今回の実験では、ビタミンEによる抗酸化作用のみを認めた。MCDラットではα-TTPの発現が抑制されて肝にビタミンEを蓄積することにより、酸化ストレスから肝を防御していると考えられた。
  • 長坂 博範
    セッションID: CS1-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    (背景)銅蓄積による肝病変の成立、進行において、銅由来の酸化ストレスが主役をなすことは古くから言われている。最近では、non-alcoholic steatohepatitis(NASH)においても、酸化ストレスが深く関与していることが証明されている。(目的)以上のことを踏まえて、酸化ストレスが織り成す肝疾患をより深く理解するため、Wilson disease(copper accumulation caused by ATP7B)におけるoxidative stress loaded on liver/hepatic anti-oxidant defense systemsを検証した。 また、生直後より加速度的に肝臓に銅が蓄積され、肝硬変が成立するとされるIdiopathic copper toxicosisの一例においても同様の検証をした(方法)肝病変early stage患者3名、advanced stage 5名、fulminant Wilson5名, carrier 2名、Idiopathic copper toxicosis 1名、から得られた肝sampleを用いた。肝内glutathion(reduced and oxidized),および thiobarbituric acid reactive substances(TBARS)濃度により、肝に負荷されたoxidative stressの強さを評価した。また、hepatic anti-oxidant defense systemsについては SOD, catalase, glutathione peroxidaseの活性、および蛋白発現により評価した。(結果)carrierにおいてhepatic anti-oxidant defense systemsは強化されていた。逆に、患者においては、early stageでさえ弱体化していた。特に、fulminant Wilsonでは、破綻していた。一方、oxidative stress loaded on liverはadvanced stageでかなり強いことが推察された。Idiopathic copper toxicosis 患者の肝では、fulminant Wilsonよりも更に顕著な所見であった。 (結論)Wilson病においては、除銅ないしは酸化ストレスを消去することが必須であることが改めて強調された。また、ATP7B heterozygoteの銅の蓄積は、飲料水や使用食器などにより、無意識に銅を過剰摂取することの危険性を再認識させるものであった。
  • 村山 圭
    セッションID: CS1-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    OBJECTIVE: The present study was aimed to know the contributions of mitochondrial respiratory chain enzymes to the development of liver failure and to the liver pathophysiology of metabolic liver diseases.
    METHODS: We investigated the mitochondrial respiratory chain enzymes in liver samples obtained from 4 patients with liver failure due to unknown etiology and from 12 patients with metabolic diseases: ornithine transcarbamylase deficiency, 6 cases; Wilson disease, 3 cases; neonatal hemochromatosis, 2 cases. The estimation of mitochondrial respiratory chain enzymes was carried out by i) BN-PAGE in gel enzyme staining, ii) BN-PAGE western blotting, and iii) in vitro respiratory chain enzyme assay.
    RESULTS: 4 cases with liver failure showed extremely low activities and protein levels of complex I, III, and IV. We also performed qPCR and estimated the ratio mtDNA/nDNA using these samples. They all exhibited extremely low ratio (2-7 %; normal is 60-150%), and were diagnosed as mtDNA depletion syndrome.
    Mild or moderate decreases in enzyme activities were found in patients with metabolic liver disease, but the respective protein levels remained normal.
    CONCLUSIONS: Mitochondrial respiratory chain defect might be an etiology of liver failure in a considerable number of patients in Japan. Secondary mitochondrial respiratory chain disorder is able to occur in metabolic liver disease in children.
子どもシンポジウム 2
子ども・胎児の薬剤性腎障害の基礎と臨床
  • 関根 孝司, 五十嵐 隆
    セッションID: CS2-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    ヒト胎児期(特に妊娠後期)に母体にアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)あるいはアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が投与されると、胎児が子宮内発育不全を呈し、出生後に腎不全を発症することがあることが知られている。この病態はACEI/ARB fetopahtyと呼ばれ、同様の腎毒性は実験動物でも証明されている。ACEIおよびARBともに最終的にはレニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAS系)の腎への作用阻害がその薬理作用であり、ACEI/ARB fetopahtyはRAS系の作用が胎児腎の発達に不可欠であることの示している。新生児ラット(ヒト胎児期に相当)へのACEIあるいはARBを投与実験では腎髄質(腎乳頭)の発育不全などが明らかにされている。これまでヒトACEI/ARB fetopathy症例のほとんど新生児期に末期腎不全に至り、その後は透析治療に移行するため病態の詳細な解析はされてこなかった。私達は新生児期の腎不全から回復したACEI/ARB fetopathyの症例を経験し、その腎機能検査をおこなうことにより病態の基礎の一つがNa喪失性の尿崩症であることを見いだした。これはラット腎での髄質の発達不全と合致する結果である。本講演ではACEI/ARBの胎児腎に対する作用と、その結果としての腎症について示し、さらに胎児腎においてRAS系が果たしている作用について考察する。
  • 藤枝 幹也, 松永 明, 関根 孝司
    セッションID: CS2-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    小児科領域における抗癌剤で腎尿細管障害を惹起する代表的薬剤にcisplatin とifosfamideがある。Cisplatinの主要障害部位は、腎髄質外帯の近位尿細管(S3 segment)で、尿細管からのMg排泄増加による低Mg血症が、投与例の約半数に認められる。この低Mg血症は、低Ca血症と低K血症を伴うことがある。腎機能障害は、一過性のことが多いが、総量依存性に非可逆的な障害を残し、障害機序は尿細管上皮細胞のapoptosis誘導や炎症による細胞障害が推測されている。他方、ifosfamideは、代謝産物による障害で投与例の1-7%にFanconi症候群に代表される多彩な尿細管障害の結果、電解質、糖およびアミノ酸の喪失、酸血症をきたし、反復投与により慢性腎障害もきたしうる。Risk factorは、総量45 g/m2、3歳未満、Cisplatinの併用、片腎摘と報告されているが、年長児発症、晩期発症例もあり、投与量のみならず長期的な経過観察が必要と考えられる。 私たちは、ICE療法(Ifosfamide、CisplatiあるいはCarboplatin、 Etoposide)後に、Fanconi症候群と低尿酸血症(血清尿酸値2.0mg/dl未満が1週間以上持続)をきたした例を経験した。この例を含め同療法をうけた小児28例で検討したところ、20/28例(71.4%)に低尿酸血症が認められ、血清尿酸値と末梢WBC数、血清K値の間に正の相関がみられた。低尿酸血症をきたしている持続期間は、死亡例(n=3)が長期間でより低値の傾向であった。低尿酸血症群のみに経過中に尿糖や蛋白尿をきたす例が観察された。ICE療法時の低尿酸血症は、骨髄抑制時期や死亡例(非寛解例)において程度が強い傾向が認められ、同療法時の低尿酸血症の意義についても報告したい。
  • 関根 孝司
    セッションID: CS2-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    腎臓は肝臓とならび、薬物、環境異物、それらの代謝物の主要な排泄器官である。腎臓は糸球体濾過によるほか、尿細管分泌により生体異物の排泄しており、この尿細管分泌は近位尿細管に存在する薬物トランスポーターによりなされている。特に有機アニオントランスポーターファミリー(OAT family: organic anion transporter family)は腎における薬物トランスポーターとして主要な役割を果たしており、その基質にはβラクタム系抗生物質、利尿薬、降圧薬、抗ガン薬など多様なものを含んでいる。また環境物質も多くを輸送する。腎毒性を示す薬物の一部は薬物トランスポーターにより近位尿細管に取り込まれ、近位尿細管に蓄積することその毒性発現の第一の機序と考えられている。 小児は腎機能が未熟であり、こうした薬物トランスポーターの発達についても不明な点が多い。本講演では薬物トランスポーターによる腎毒性メカニズムを中心に述べ、また新生児、小児で問題となる腎毒性物質との関連についても言及したい。
  • 鈴木 雅実
    セッションID: CS2-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    腎臓は薬物や化合物の主要排泄経路であり、毒性の発現しやすい臓器である。その要因として、単位重量あたりの血流量が多いこと、尿の生成過程において尿細管内で水分濃縮が起こり、管腔内薬物濃度が上昇すること、上皮細胞の刷子縁膜・側底膜に存在する輸送系によって薬物が細胞内に移行することなど、腎臓の生理的・機能的な特徴が関連している。 幼若動物の腎毒性評価を進める上では、これらの生理的・機能的な特徴に幼若期と成熟期とで種々の相違がみられることを考慮する必要がある。すなわち、糸球体ろ過量(GFR)は出生時において極めて低く、成熟とともに増加する。また、尿濃縮能ならびに尿pH調節能も出生時には低く、成熟とともに高まる。輸送系を司るトランスポーターの発現量は分子種によって様々ではあるが、多くの分子種において、その発現量は出生時に低く、成熟とともに高まる。ラットにおけるこれらの生理的機能は6週齢で成熟レベルに達すると考えられている。幼若期では生理的機能が成熟過程にあることより、薬物・化合物の腎毒性発現メカニズムにより、幼若期の方が成熟期より毒性が強くみられる場合と、逆に、幼若期では成熟期より毒性が弱まる場合とがある。 胎児・幼若動物の腎毒性を評価する際には、上述した生理的機能の成熟過程に加え、発生・形態形成も考慮する必要がある。ラット腎臓の形成は、妊娠12.5日より後腎発生として始まり、出生後も糸球体の形成などが数週間継続した後、完了する。形態形成を止める、遅らせる、あるいは形成異常を誘発する薬物・化合物は、成熟期には発現しない腎毒性を胎児・幼若期に発現する場合がある。 本セッションでは、ラットにおける腎臓の発生・形態形成、生理的・機能的成熟と、代表的な薬物・化合物の胎児・幼若期と成熟期との腎毒性の相違を中心に紹介する。
子どもシンポジウム 3
「子ども」の発達に胎生期環境と遺伝子がどのように影響するか
  • 福井 義浩
    セッションID: CS3-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    胎生期にエタノールに曝露されると、種々の器官に発達障害を生じることが知られており、fetal alcohol syndromeをはじめとしたfetal alcohol spectrum disorder(FASD)の原因となる。FASDで最も問題となるのは中枢神経系の機能障害である。我々は、胎生期エタノール曝露による中枢神経系機能障害の詳細を明らかにするために、胎生10-20日にエタノール曝露されたラット(Etラット)で、行動異常や概日リズム調節障害とこれらの異常に深く関わっていると推察されるセロトニン神経系の発達障害について解析した。 Etラットでは、新奇環境下で探索行動の減少が認められた。高架式十字迷路試験では、試験中freezingが顕著に認められた。深部体温概日リズムを観察したところ、明暗周期を8時間前進させた後の同調反応が対照群より有意に遅れていた。恒常暗下でのfree-runリズムに異常は認められなかったが、光照射による位相後退反応性が低下した。これらの行動学的異常や概日リズムの調節障害にはセロトニン神経系が深く関わっていることが明らかになっている。そこで出生直前のEtラットにおいてセロトニン神経の発達を調べたところ、セロトニン濃度(全脳)の低下、及び縫線核においてはセロトニン陽性神経細胞数の減少が認められた。また、成熟Etラットにおいても縫線核のセロトニン陽性神経細胞が減少していた。 これらの結果は胎生期エタノール曝露によるセロトニン神経の発達障害が行動異常や概日リズム調節障害の原因となっていることを直接示すものではないが、胎生期エタノール曝露によりセロトニン神経系の発達に障害が生じ、セロトニンが深く関わっている脳機能が障害されることが興味深い。セロトニン神経系の発達障害が胎生期エタノール曝露による脳機能障害にどのように関わっているかを考察する。
  • 種村 健太郎, 五十嵐 勝秀, 相崎 健一, 北嶋 聡, 菅野 純
    セッションID: CS3-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】  中枢における主たる興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸による適切な受容体刺激が、発生期の脳形成においても重要な役割を演じている。本研究は、グルタミン酸受容体の過剰刺激が脳微細構造形成へ及ぼす影響と、それが引き起こす遅発性中枢行動毒性を明らかにすることを目的とする。 【方法】  胎生11.5、14.5、17.5日齢のマウスに対して経胎盤的にグルタミン酸受容体のアゴニストであるドーモイ酸を暴露し、得られた雄マウスについて生後10-12週齢時における終脳の神経細胞突起に焦点を合わせた形態機能解析と、オープンフィールド試験、明暗往来試験、高架式十字迷路試験、条件付け学習記憶試験、プレパルス驚愕反応抑制試験等の行動解析を行った。 【結果】  生後10週齢の成熟雄マウスへのドーモイ酸暴露は、海馬依存的な場所-連想記憶障害のみを誘発した。これは、ヒトにおいて海馬を選択的に破壊し記憶障害を示すという報告に合致していた。これに対し、胎生期にドーモイ酸暴露を受けたマウスには、(1)大脳皮質における神経細胞突起発達の不全、(2)軸索構成タンパクの生化学性状の変化とともに、(3)情動行動の逸脱、(4) 重度の学習障害に加えて、場所-連想記憶障害のみならず音-連想記憶の障害、(5)プレパルス驚愕反応抑制試験における抑制度の低下が確認された。 【考察】  本系は胎生期におけるグルタミン酸受容体過剰刺激を起点とする脳形成不全をともなう脳機能発達障害モデルとして位置づけることが出来ると考えられた。尚、これまでに報告されている複数の統合失調モデルマウスの表現型は、本系の示す一連の表現型の部分像に該当することが指摘される。(本研究成果は厚労科研費「化学物質による子どもへの健康影響に関する研究 :H17-化学-一般-001」によるものである。)
  • 塩田 浩平, 山田 重人
    セッションID: CS3-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     体外受精(IVF)に代表される生殖補助医療(ART)は、不妊患者に対する有効な治療法として広く用いられており、全世界でこれまでに推定100万人以上がARTによって出生している。ARTの技術には絶えず改良が加えられており、その成功率や安全性には著しい進歩が見られる。ARTによって生まれた児の大多数は健康に生まれているが、その一方で、ARTがある種の異常のリスクを上昇させる可能性を疑った研究が近年報告されている。
     多数のART出生例について発生異常を調べた研究を見ると、一般集団に比べて異常の頻度に差がないとする報告がフランス、オーストラリア、フィンランド、スペイン等からなされている。一方、IVF、細胞質内精子注入法(ICSI)によって生まれた児には先天異常が一般集団の約2倍の頻度で見られるとする報告がある。神経管奇形、腹壁裂、結合双胎など特定の異常や低体重出生との関連を疑った報告も散見される。
     さらに近年、ARTとゲノムインプリンティング(genomic imprinting)の異常との関連を疑う論文が相次いで発表され、ARTの安全性について新たな課題を投げかけている。実験的にも、胚培養やクローニング技術が胚細胞のDNAメチル化に影響を及ぼすとのデータがある。クローン動物に見られる過成長や胎盤形成異常についても、インプリンティング異常との関連が指摘されている.また、インプリンティングを受けるある種の遺伝子は癌抑制に関与することから、ARTと発癌との関連も重要である。
     現在ARTのリスクファクターが十分明らかでないことから、ARTの胚発生に及ぼす影響についての基礎的な研究データを蓄積すると共に、ARTによって生まれた児の発生異常、発育、精神神経発達、発癌等に関する長期フォローアップとデータベースの構築が望まれる。
  • 宮川 剛
    セッションID: CS3-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
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    Despite massive research efforts, the exact pathogenesis and pathophysiology of psychiatric disorders, such as schizophrenia and bipolar disorder, remain largely unknown. Animal models can serve as essential tools for investigating the etiology and treatment of such disorders. Since the introduction of gene targeting techniques, the functions of more than 10% of all known mouse genes have been investigated by creating mutant mice. Some of these mutant mouse strains were found to exhibit behavioral abnormalities reminiscent of human psychiatric disorders. In this talk, I will discuss the general requirements for animal models of human psychiatric disorders. I will also outline our unique approach of extrapolating findings in mice to humans, and present studies on alpha-CaMKII heterozygous knockout mice and Schnurri-2 knockout mice as examples. The impact of a large-scale mouse phenotyping on studies of psychiatric disorders and the potential utility of an "animal-model-array" of psychiatric disorders for the development of suitable therapeutic agents will be discussed.
子どもシンポジウム 4
子どもの臨床試験に入る前に理解すること
  • 横井 毅
    セッションID: CS4-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    小児期は生体機能が年齢とともに大きく変化するため、各年齢における薬物動態の特徴に基づいた薬物療法が必要である。経口薬の消化管吸収については、新生児の胃液のpHが高いことや、生後数ヶ月から半年は胃内容排泄時間が長いため、脂溶性の薬物を除いて一般に吸収が悪い傾向にある。腸管吸収率も新生児では低い。薬の体内分布については、血清蛋白量が低いため、蛋白結合率が低いが、生後1~3年で成人レベルになる。代謝活性は生後速やかに発達し、一般に2~3年で成人レベルになるが、例外も多く知られている。CYP3A7の活性は生後直後に活性が高いために、基質となる薬のクリアランスに大きく影響する。抱合酵素活性については、硫酸抱合の発達は速く、グルクロン酸抱合の発達は遅い。グルクロン酸転移酵素(UGT)分子種でも、UGT1A1やUGT2B7は生後3ヶ月程度で成人のレベルになるが、UGT1A6、UGT1A9やUGT2B7は数年から10年かかる。小児の酵素誘導能についての確かな報告はないが、CYPおよびUGTのいずれも成人よりも酵素誘導を受けやすいことが示唆されている。肝代謝については、小児は体重当たりの肝重量が大きく、肝重量当たりの肝血流量が大きいことの影響を十分に考慮する必要がある。薬の腎排泄能は新生児で未発達であり、生後2, 3ヶ月までは成人の半分以下であるため、有効量と中毒量の幅が狭いことに注意する必要があるが、生後1年程度で成人レベルになる。糸球体ろ過量は新生児では低いが、その後急速に高くなり、1年で成人の2倍になりその後減少する。以上、乳児、幼児や小児における薬物動態は個々の薬によって発達との関係が異なっているために、一様に論ずることはできない。個々の薬において薬物動態のデータに注意をした適切な薬物療法が安全性の確保には必要である。
  • 斎藤 博久
    セッションID: CS4-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    乳幼児期にエンドトキシン量の多い非衛生的な環境で暮らすと、そうでない場合に比べてアレルゲンの感作率や花粉症罹患率が有意に低いことが疫学的に証明されている。この効果は、乳幼児期の免疫システム完成時において、TH1細胞を刺激するエンドトキシン量が少ない場合、TH1細胞と対立関係にあるアレルギー反応を促進するTH2細胞が異常に増殖するためであると考えられている。TH1細胞とTH2細胞の両者の増殖を抑制する細胞として制御性T(Treg)細胞の存在も知られている。最近、重症の喘息・アトピー性皮膚炎患者および患者と同程度のレベルのIgE抗体や好酸球を保有するがアレルギー自覚症状を欠く同年齢の健康人のFoxP3陽性Treg細胞数を比較する機会を得、Treg細胞数は重症患者において有意に低値を示すことを見いだした。FoxP3陽性Treg細胞数には2種類存在する。そのうち、常在性Treg細胞は自己抗原に反応するので、アレルギー疾患対アレルギー体質保有健康人において差違がみられたのは獲得性(a)Treg細胞であろう。2つの群ではIgE値、好酸球数のみならずインターフェロンγ値も同程度であった。したがって、aTreg細胞と拮抗しアレルギー疾患発症を規定するのはTH1細胞でもTH2細胞でもなさそうである。最近、第3のヘルパーT細胞として炎症促進効果の強いインターロイキン17を分泌するTH17細胞が同定された。TH1細胞、TH2細胞、Treg細胞のいずれとも対立関係にあるTH17細胞がアレルギー疾患発症に関係している可能性が想定される。あるいは、TH2細胞の中でも、アレルギー疾患患者では炎症促進性サイトカインTNFを分泌するTH2inf細胞が増加しているのかも知れない。TH1細胞とTH2細胞のバランスはアレルギー体質の獲得に関係している。しかし、アレルギー疾患の発症には、Treg細胞と炎症性T細胞のバランスが重要であると想定される(参考文献「アレルギーはなぜ起こるか」ブルーバックス)。
  • 寺尾 惠治
    セッションID: CS4-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     免疫系はそれぞれ機能の異なる複数の細胞集団により構成され、それぞれの細胞集団の密接な相互作用により複雑な免疫反応が発現する。これらの免疫担当細胞はいずれも骨髄の造血幹細胞から分化し末梢で成熟するが、末梢での分化成熟の程度は免疫系の発達と暴露される抗原の質および量に左右される。新生児は免疫学的には未熟な状態で生を受け、誕生直後から膨大な抗原に暴露されることになる。免疫系の初期発達の過程は、暴露された抗原に対する免疫応答の結果を反映したものであり、それぞれの抗原に対応する細胞クローンの活性化、増殖、消滅、記憶細胞の蓄積というダイナミックなサイクルが増幅される過程ととらえることができる。下記に要約するマカク属サルでの免疫系の初期発達に関わる調査結果は、いずれも成長に伴う免疫系の活性化を示唆している。  1)B細胞、ヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞、ナチュラルキラー細胞の末梢主要リンパ球サブセットは、いずれも出生直後には未熟(naive)な表現型を示す細胞が大半を占めるが、発達過程で表現型はダイナミックに変化し、活性化マーカーを発現している細胞(activate)が急激に増加してゆく。  2)T細胞レセプターからみたT細胞クローンのレパトリー(T細胞クローン数)は成長に伴い増加する。  3)リンパ球の分裂回数を反映するテロメア長は成長に伴って短縮してゆく。  4)免疫グロブリン(IgG, IgA, IgM)量および自然抗体価はいずれも成長に伴い増加し、性成熟前後で成体レベルに達する。  以上の結果を総合すると、マカクザルで免疫系の発達が完了する時期はサブセットおよび機能により若干異なるが、3歳から5歳前後、すなわち、ヒトと同様に性成熟に達する前後でその成熟が完了すると判断され、小さな大人ザルにはみられないダイナミックな変化がそれを支える。
  • Neha Sheth, Rachel Sobel, Gail Cawkwell
    セッションID: CS4-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    Juvenile toxicology studies in animals provide useful information to guide monitoring of potential adverse effects in children especially on growth and development. In order to continue to gain knowledge and build upon these preclinical studies, recent experience has suggested that additional approaches for monitoring of safety concerns in the pediatric population may be required. Recently, pediatric guidance have become available from the health authorities which provide pharmacovigilance concepts as they specifically relate to drugs being developed for pediatric indications. Clinical trials are typically not robust enough to detect rare or delayed safety effects as the pediatric trials are relatively short-term. Furthermore, such long term or rare effects may not be detected via standard voluntary postmarketing surveillance. Safety monitoring of children with Juvenile Inflammatory Arthritis (JIA) taking NSAIDs will be used as an example to describe a post-marketing risk management and pharmacovigilance program that serves to better evaluate safety data from various sources. The intent of this program is to identify adverse events (AE), including events with longer latency, which may be associated with NSAID use in a pediatric population. In this presentation, the 4 major components of the program are to be addressed. Such a program may serve as a model to proactively generate and monitor safety data in order to identify AEs that may be associated with new therapeutics for a pediatric population.
子どもシンポジウム 5
動物試験から学ぶ子どもの免疫
  • 中村 織江
    セッションID: CS5-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    母体にとって胎子はsemi-allogenicな存在であり、免疫学的には異物である。それにも関わらず妊娠期間を通じて胎子は母体により拒絶されない。これは母体側胎盤である脱落膜で免疫寛容が成立しているためである。逆に、母体免疫細胞による胎子への異物認識が起きてしまった場合には、異物の排除すなわち流産が起こる。実際、ヒトにおける原因不明の習慣性流産の一因として母体における妊娠期の免疫寛容不成立が考えられている。 トロホブラストの一部は脱落膜深部にまで侵入するものがあることが明らかとなっているが、それでも母体免疫細胞に攻撃されることはない。一方で、トロホブラストの侵入は母体の子宮筋層を越えることはなく、脱落膜において一定レベルでの増殖が厳密に調節されていることが示唆される。胎子側の異物認識の回避において最も重要と考えられているのがトロホブラストに発現しているHLAパターンである。特にHLA-Gはトロホブラスト特異的に発現しているため妊娠中の免疫寛容を成立するために関与している分子と有力視されている。実際、膜結合型HLA-GはNK活性を抑制し、分泌型は反対にキラー活性を惹起しているという報告もある。 胎子トロホブラストと直接に接している脱落膜ではT細胞、Treg細胞、マクロファージ、子宮NK細胞等様々な免疫細胞が存在している。それらの免疫細胞はステロイドホルモン下で各々独立して機能しているのではなく、互いの機能やサイトカイン産生の調節を行っていると考えられている。また、妊娠維持に適した免疫寛容環境を作り出すためには脱落膜細胞の存在も重要である。脱落膜細胞は非妊娠時の子宮内膜間質細胞がプロゲステロン存在下で高い分泌能力を持つ細胞に分化したものである。脱落膜細胞は様々なサイトカイン、成長因子を産生し、ECM環境や免疫担当細胞を調節し免疫寛容の成立に大きく寄与していると考えられる。
  • 荒川 泰昭
    セッションID: CS5-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトでは、胸腺Thymusは免疫系器官のうちで最も早期にリンパ球の現われる器官であり、以後胎生期を通じて最も活発にリンパ球造成を継続する。胸腺の絶対重量でみるとヒトでは思春期直前に最大値となるが、体重あたりの相対臓器重量でみると出生直後が最大で、以後減少を続ける。ヒトの胸腺は胎齢16週で形態学的に完成しており、げっ歯類を除く哺乳類でも胎齢中期以降に完成する。げっ歯類を除く哺乳類では、ヒトも含めて、免疫系は出生時までに十分成熟しており、出生時には胸腺に対する依存度も比較的小さくなっている。しかし、げっ歯類の胸腺は形態学的には出生時まで未完成であり、その発育は新生児期までには完了するが、末梢性Tリンパ球集団(末梢性リンパ性器官の胸腺依存性領域)の形成は未だほとんど行われていない。したがって、この時期に胸腺を摘出すると、この末梢性Tリンパ球集団の出現が阻止されることになる。すなわち、成体の胸腺を摘出した場合には末梢性のリンパ球集団にも免疫応答能力にも影響は少ないが、新生児期に胸腺を摘出すると、リンパ球減少症、寿命の長い再循環性リンパ球の顕著な減少、細胞性免疫応答の欠落、Tリンパ球関与の体液性免疫応答の著明な低下などが起こる。
    一方、胸腺は加齢と共に生理的に退縮し、リンパ球の産生は低下し、皮質は菲薄となり、実質は縮小し、その大部分が脂肪組織で置き換えられる。この加齢退縮age involutionは一般には思春期から始まると考えられているが、胸腺実質全体に対する皮質の占める割合の減少を、胸腺の機能的活性の低下を示す指標と見なすと、ヒトの加齢退縮は実際には小児期の初期にすでに始まっていることになる。
    以上の観点から、本講では、飼育可能な乳離れしたばかりの幼若ラットを用いて、化学的な胸腺萎縮Thymus Atrophy(化学的胸腺摘出Chemical Thymectomy状態)を中心に、その病的老化の誘導メカニズムを考察する。
  • 山元 昭二, 藤巻 秀和
    セッションID: CS5-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     子どもの免疫系は発達段階にあり、大人に比べて化学物質の影響を受けやすくなることが報告されているが、特に、胎児期・乳児期での免疫毒性物質への曝露は、免疫機能の正常な発達に深刻な影響をもたらす可能性が指摘されている。一般に、感染防御において重要な役割を担っている獲得免疫系には液性免疫と細胞性免疫の二つがあるが、ヘルパーT細胞の亜集団であるI型ヘルパーT(Th1)細胞は細胞性免疫に関与しII型ヘルパーT(Th2)細胞は液性免疫に関与する。近年、子どもの免疫発達は、Th1細胞とTh2細胞の機能の関係で議論され、その発達の過程では、Th1/Th2比の均衡がとれた状態で発達していくことが重要と考えられている。Th1/Th2比の均衡がTh2優位に傾くと花粉症やアトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアレルギー疾患を起こしやすくなる。このTh2の機能はTh1によって相補的に抑えられるが、いくつかの細菌(又は細菌成分)はTh1反応を刺激し、Th2反応やIgE産生を減少させることが知られている。我々は、これまでにシックハウス症候群の原因物質の一つともいわれるトルエンの成熟マウスへの低濃度曝露が神経系や免疫系をかく乱することを明らかにしたが、本研究では、低濃度トルエン曝露が発達期の免疫系に及ぼす影響を明らかにするためにマウスの胎児期・乳児期にトルエンを吸入曝露し、Th1, Th2バランス形成への影響について検討した。その結果、マウス胎児期の低濃度トルエン曝露はTh1, Th2バランス形成をかく乱することが明らかになった。なお、トルエン曝露とグラム陽性菌細胞壁成分刺激との併用による影響についても検討したので合わせて報告する。
  • 石川 昌
    セッションID: CS5-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    近年、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の著しい増加が認められ、特に最近はアレルギー発症の低年齢化が指摘されている。この原因には、生活居住環境や生活様式の変化によるダニやカビなどのアレルゲンの増加、花粉飛散量そのものの増加、ディーゼル排気粒子による大気汚染といった環境要因が大きく関与している。一方で、アトピー性皮膚炎の子供には食物アレルギーでもある子供が多いということも臨床的に知られており、乳児アトピー性皮膚炎では実に74%が食物アレルギーを有しているという報告も存在する。このことは腸管免疫の破綻として捉えられる食物アレルギーとアトピー性皮膚炎が非常に密接な関係があるということを示唆している。このような臨床疫学的知見を踏まえると、アレルギー疾患増加の環境要因としての環境化学物質を考える際には、腸管免疫に及ぼす影響を検討する必要があると考えられる。我々は、このような考えに基づき動物実験を行い、環境中に存在する化学物質の中には、生体防御に重要な役割を果たしている腸管免疫システムを破綻させることによりアレルギー感作を成立させてしまう物質が存在することを明らかにした。すなわちダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)は腸管IgAレベルの低下や経口寛容の破綻をもたらし、経口摂取抗原による全身性感作をもたらすことが明らかとなった。さらにこの影響は母乳曝露によりダイオキシンを摂取した仔マウスにおいても認められることが示唆されている。本シンポジウムでは腸管免疫破綻の機序などについて成績を紹介すると共に、腸管免疫を切り口にした新たなスクリーニングシステムの必要性と環境化学物質による子供の腸管免疫破綻の健康影響について討論する。
先端物質シンポジウム
先端物質シンポジウム 1
先端物質の安全性評価に対応するための連携
  • 竹村 誠洋
    セッションID: NS1-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     ナノテクノロジーは社会に多大な恩恵をもたらすことが期待される反面、健康・環境へのリスクなど、社会的影響に対する懸念も少なくない。現時点でリスクが顕在化したという勧告はないが、その潜在的リスクが研究開発関係者、リスク専門家のみならず、一部の市民にも意識されている。ナノテクノロジーの社会的影響に関する課題は環境・健康・安全関連の課題と倫理・法・社会関連の課題の二つに大別される。前者に関しては、ナノマテリアルの健康・環境リスク評価管理が至近の最重要課題である。一方後者に関しては、人文社会科学者らによるテクノロジー・アセスメントなどを通して、課題が抽出・整理される段階にとどまっている。ナノマテリアルは代表寸法(粒径、断面径、膜厚など)が100nm以下の工業材料と一般認識されている。そのリスクを被る対象として、労働者、消費者、環境の3つが挙げられる。中でも被ばくする可能性が最も高いのは労働者であり、現在実施されているプロジェクトのほとんどが彼らの安全衛生を目的としている。ナノマテリアルの管理においては、従来の化学物質管理と同様、ハザード(有害性)ではなくリスクを管理する、ということが世界的に大前提となっている。ハザードが大きい場合でも曝露を低減するように管理すればリスクを小さくできる、という考え方である。現状ではリスク評価を行うための十分なデータが蓄積されておらず、規制などが確立されるまでの間は、現実的な安全衛生対策の中で最善のものを行う、ベストプラクティスの実行が求められる。ナノテクノロジーの社会受容に関する取り組みは米国で始まり、欧州、日本がそれに続いている。例えば米国ではNIOSH、EPAなどの公的機関に加え、ICONなどの産学官およびNGOを含む組織の活動も活発である。またリスク評価に関する国際協力の重要性も認識され、OECD、ISOが国際合意形成の場として活動している。
  • 山本 展裕
    セッションID: NS1-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアルについては、消費者製品への応用が展開される一方で、その安全性については十分に解明されていないところであり、国内外の研究機関や政府機関、経済協力開発機構(OECD)において、安全対策のための検討が進められているところである。厚生労働省においても、厚生労働科学研究費において、ナノマテリアルへの暴露による有害性の評価に利用可能な手法の開発に資する研究事業を採択してきており、また、ナノマテリアルの用途や生産量等に関する調査事業を行い、実態把握に努めてきている。そして、本年3月には、医薬食品局に「ナノマテリアルの安全対策に関する検討会」を設置し、今後の安全対策の在り方について議論を行うこととしたところである。
    本セッションにおいては、OECDの取り組みや海外の政府機関における議論、厚生労働省において実施した調査事業結果、そして、ナノマテリアルの安全対策に関する検討会の議論の内容について紹介したいと考えている。
  • 蒲生 昌志
    セッションID: NS1-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     産総研(独立行政法人 産業技術総合研究所)では、ナノテクノロジーの産業化戦略の一環として、2004年からナノテクノロジーの社会受容のための取り組みを実施しており、2006年からは、工業ナノ材料のリスク評価に関する5年間の本格的な研究プロジェクトを開始した。このプロジェクトの正式名称は「ナノ粒子特性評価手法の研究開発」といい、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)による事業である。
     このプロジェクトの特徴の一つは、適切に調整・キャラクタライズされたナノ材料を試料として用いて有害性試験を実施し、さらに、暴露評価、リスク評価、工業ナノ材料のリスクの管理の考え方に関する研究までも一体として行う点にある。そのため、研究体制としては、産総研内部・外部から、ナノ粒子の計測や調整、有害性評価、リスク評価など、様々な専門性を有した研究者が集まっている。試料調整やキャラクタライズは、従来の化学物質のリスク評価では比較的問題とならなかった部分であるが、工業ナノ材料の有害性試験の実施においては最も重要なポイントだと言える。
     プロジェクトのもう一つの特徴は、その有害性評価の戦略にある。我々が「2軸アプローチ」と呼ぶその方法は、いくつかの代表的なナノ材料については吸入試験を含む詳細な試験を実施しながら、一方で、in vitro試験や簡易なin vivo試験により、様々なナノ材料の比較や試料調整の影響の評価を行なう。それらを組み合わせることによって、幅広いナノ材料によるリスクを考察できるようにする。全ての有害性試験が、原則として、単にナノ材料の生体反応を観察するに留まらず、最終的には、現実のヒトに対するリスクを評価することを念頭においている。
     工業ナノ材料のリスク評価を可能にする様々な技術を確立するとともに、フラーレン、カーボンナノチューブ、二酸化チタンのリスク評価書を作成する予定である。
  • 広瀬 明彦
    セッションID: NS1-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    産業用途のナノマテリアルは、その中心的な役割を担う新規物質として、近年急速にその種類や生産量を増しつつある。同一化学組成を持つ大きな構造体とは著しく異なるナノマテリアルの物理化学的性状は、産業的に新しい用途への適用として期待されているところであるが、一方で未知の生体・生態影響が予測されることから、新たな危惧として捉えられる可能性も含んでいる。これまでの通常の毒性試験は構造体そのものの大きさに対しては、アスベストや塵肺症原因物質などを除き、特別の考慮はされていないことから、ナノマテリアルの粒径に基づく物理化学的特性を考慮した毒性試験法や有害性評価手法の開発が急務となっている。国立医薬品食品衛生研究所では、厚生労働科学研究の化学物質リスク研究事業の補助を受け、平成16年度よりナノマテリアルの影響評価法開発に関する研究を行ってきている。研究当初の調査研究により、生体影響評価を行うためには、まず生体試料中でのナノマテリアルの測定法の確立と生体内での挙動を明らかにすることが当面の課題であることを明らかにした。さらに、フラーレンなどの生体成分との親和性や酸化チタン粒子の吸収性、ナノチューブ等の繊維状粒子の形状から類推して、長期間の生体内蓄積性による検証が必要であると考えられた。そこで、「ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法の開発のための有害性評価および体内動態評価に関する基盤研究」では、1)暴露測定法および動態解析法の開発、2)in vitro試験系開発に加え、暴露の懸念が高いと考えられる3)ナノ粒子の吸入毒性評価手法の開発、長期曝露による影響を検証するための4)in vivo生体影響評価手法の開発と、大きく4つの実験部門に分けて研究を進めている。今回は本研究班の概要と関連する研究との連携について紹介する。(厚生労働科学研究費補助金H17-化学-一般-012及びH18-化学-一般-007)
先端物質シンポジウム 2
ナノマテリアルの評価手法に関する研究の進展
  • 徳永 裕司, 小濱 とも子, 内野 正, 五十嵐 良明
    セッションID: NS2-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     化粧品分野で紫外線遮断剤として用いられている、ナノマテリアル化された酸化チタンを取り上げ、ラット雄を用いた28日間の反復経皮投与による検討を行ったので報告する。
    【実験の部】Crl:CD(SD)系ラットの雄4週齢(体重60~100 g)30匹を6匹ずつ5群に分け、検疫馴化期間は約2週間とし,経皮投与7日前より動物には首枷を装着するとともに,背部から側腹部を電気バリカンで除毛した。ステンレススチール製ケージに1匹を入れ,飼育を行った。ペンタランに懸濁させた35 nm酸化チタン2%液及び10%液,35nmの表面処理酸化チタン10%液,250nm酸化チタン10%液を調製し、その1あるいは2.5mLをラットの背部に塗布し、閉塞パッチで飼育した。毎日、閉塞パッチ部分を取り替え,28日間の反復投与を実施した。28日間の投与後,皮膚、肝臓、腎臓、肺、脾臓及び脳を採取し,低温フリーザー(設定温度;-30℃)内で凍結保存した。臓器中の酸化チタンの測定は、切断した臓器約0.1 gをHP-500型テフロン製容器に入れ,硝酸/過酸化水素水混液を用いたマイクロ波式湿式分解装置で疎解を行い、得られた溶液をICP/MS装置で測定した。
    【結果】皮膚中の酸化チタン量はコントロールの1.177±0.795μg/gに対し、35nm酸化チタンの2%懸濁液の3.691±0.795μg/g(P<0.01), 35nm酸化チタンの10%懸濁液の8.242±4.020μg/g(P<0.01), 250nm酸化チタンの10%懸濁液の5.414±1.123μg/g(P<0.01)及び被覆化した35nm酸化チタンの2%懸濁液の5.028±2.718μg/g(P<0.01)と明らかにコントロール皮膚と比べて高値を示した。肝臓及び腎臓中の酸化チタン量は、35nm酸化チタンの2%懸濁液あるいは35nm酸化チタンの10%懸濁液で統計的に高い値を示した。検討した肺、脾臓及び脳では、コントロールと比べて統計的に有意に高いデータは得られなかった。
  • 亘理 文夫, 阿部 薫明, 宇尾 基弘, 江崎 光恵, 森田 学, 平田 恵理, 横山 敦郎, 赤坂 司, 韮澤 崇, 佐藤 義倫, 田路 ...
    セッションID: NS2-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]ナノ物質は高機能性とともに刺激性も増進し、呼吸・消化器系を通して体内侵入・拡散する可能性がある。本研究では新たに開発した方法も含め、数種の方法で全身動態を可視化し検討した。
    [方法]1.軟組織埋入試験:ラット軟組織に1週間~最長2年間まで埋入後、病理組織像を観察した。
    2.体内動態試験:Ti, Fe, Ni, Pt, TiO2, CNT, ポリ乳酸等の微粒子を分散後、マウスへ尾静脈注入、一部については経口投与した。下記MRI法を除き開腹または切片を作製後、全身分布観察、あるいは肺・肝臓・脾臓・腎臓を摘出して臓器間比較を行い、体内循環の経時的変化を可視化した。また臓器内含有量をICP化学分析し比較した。
    (1)XSAM(X線走査型分析顕微鏡)元素マッピング法:収束X線プローブを照射し、試料から発光した蛍光X線をマッピングし元素分布像を得た。(2)レーザーアブレーション/マススペクトルマッピング(レーザーマス)法:水溶化したフラーレン(C60)を投与したラットの各臓器の切片に、レーザービームを照射し蒸散した分子をマススペクトルにかけ、2次元質量分布像を得た。(3)MRI法:粒径11nmのFe3O4磁性微粒子の体内循環を経時的に3次元造影した。(4)蛍光顕微鏡法:蛍光(FITC)ラベリングしたCNTおよびポリ乳酸微粒子を投与後、蛍光観察を行った。
    [結果](1)XSAMマッピング像から、30nmTiO2は投与後数分で肺に到達し、肝臓へは数時間、脾臓へは数十時間かけて次第に到達した。Ptでは投与ごく初期から脾臓に高濃度で検出され、臓器別では肝臓で最も多量に存在した。(2)水溶化フラーレンはレーザーマス法では脳からは検出されず、肝臓と腎臓から検出された。(3)Fe3O4粒子は肝臓、腎臓に濃縮したMRI像を示した。(4)肝臓からCNT蛍光像が検出された。
  • 古山 昭子
    セッションID: NS2-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     Manufactured nanoparticles、 または engineered nanoscale materials と言われるナノ粒子には、炭素の新しい同素体(フラーレン、カーボンナノチューブ)、酸化チタン、酸化亜鉛や銀の超微小粒子、量子ドット、ナノリポゾームなどがある。これらのナノ粒子は、化学物質としては既存のものであるが、粒径や形状が分子レベルに近いことから、組織透過性が高く、生体との反応性が極めて高いため、これまでの物質とは異なる安全性基準が必要であると考えられている。なかでもカーボンナノチューブは、形状や難分解性であることがアスベストと非常によく似ている。難溶性物質の呼吸器への影響検討には、物質の粒径や動力学的過程によって沈着部位が異なるために吸入曝露実験が理想的であるが、簡便評価法として実験動物へのカーボンナノチューブの気管内投与により毒性評価の検討を行った。
    【方法】多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は試料の無菌化と細菌壁成分の除去のため、マッフル炉で250℃2時間処理を行った。試験には6週令の雄性ICRマウス(Jcl)を用い、1匹あたり100µgを気管内投与した。24時間およびに4週間後、体重(g)x0.035mlの局方生理食塩水を用いて肺胞洗浄を行い、洗浄液中の細胞数と種類、炎症性サイトカインを測定し、さらに組織標本を作製して影響を検討した。
    【結果・考察】MWCNTの気管内投与24時間後には、肺胞洗浄液中の総細胞数が増加し、好中球と好酸球など白血球の有意な増加が認められた。また、炎症性サイトカインであるIL-1β、KC、MCP-1、MIP-1βの濃度が顕著に上昇した。投与4週間後には、白血球は低下したが肺胞マクロファージはさらに増加した。以上の結果は、気管内投与したMWCNTの炎症誘導能が大変高いことを示している。
  • 津田 洋幸, 徐 結苟, 深町 勝巳, 井上 義之, 高月 峰夫, 徳永 裕司, 内野 正, 西村 哲治, 広瀬 明彦, 菅野 純
    セッションID: NS2-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    ナノ粒子にはIARC/WHOではGroup2B(ヒト発癌物質の可能性あり)と評価されているものもある。癌原性リスク試験は必須であるが、吸入曝露による発がん試験には長期間と高価な設備を要する。そのために専用の設備を要しない投与法によって、発がんプロモーション作用を指標として比較的短期に癌原性を評価する試験法開発を試みた。1)肺・乳腺発がんプロモーション試験:乳腺発がん高感受性雌ヒト正常型Ha-ras遺伝子トランスジェニックラット(Tg)を用い、ニトロサミンのDHPN飲水投与(イニシエーション)後にTiO2(ルチル型、500および250ppm/生食懸濁)を2週に1度肺内に噴霧投与して16週で終了した。TiO2は肺以外に脳、リンパ節、乳腺等に検出された。肺と遠隔の乳腺腫の発生にプロモーション作用が示された。同様のプロモーション検索法で、通常ラットにおけるフラーレンC60(500および250ppm/ショ糖分散液)の肺内噴霧実験に貪食された凝集体の沈着と慢性炎症反応がみられた。2)皮膚:高感受性Tgラットを用い、TiO2の皮膚発がんプロモーション作用を検索した。7,12-dimethylbenz[a]anthracene (DMBA、2.5mg/ml、アセトン溶解)を1回塗布の1週後よりTiO2を100mg/pentalan 1mlに懸濁分散させ、0.5mlを週2または1回3x3cmの剃毛背部皮膚に塗布し28週で終了した。以上の手法を用いることにより皮膚腫瘍の発生においてはプロモーション作用を検出することが示され、ナノ粒子について肺吸入と皮膚塗布による発がんプロモーション試験法が癌原性の早期検出系として有用であることが示された。(厚生労働科学研究費補助金H18-化学-一般-007及びH19-化学-一般-006による)
  • 高木 篤也, 広瀬 明彦
    セッションID: NS2-5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     ナノマテリアルが生み出す新たな物性は、産業的な新しい用途への期待をもたらすものであるが、一方でヒト健康影響に対しては、新たな毒性を生む可能性も含んでいる。その中で、形状がアスベストに類似したカーボンナノチューブについて、その発がん性が危惧されている。アスベスト様の発がん性を調べる動物試験法には、吸入暴露試験・気管内強制投与試験に並行して腹腔内投与試験が従来より用いられてきた。腹腔内投与は、暴露経路が吸入暴露と異なることから、ヒトでの有害性予測に関して過去に議論されてきているが、WHO(2005年)のワークショップでは、有害性同定として考慮する価値のある方法であることが示されている。また、発がん短期試験系として利用されているp53ヘテロ欠失(+/-)マウスのアスベスト腹腔内投与により、短期間で中皮腫が誘導されることが報告されている。今回、我々はこのp53+/-マウスを用い、多層カーボンナノチューブを腹腔内投与することにより、アスベストと同様に中皮腫が誘導されることを初めて明らかにした。すなわち、過去のアスベストやガラス繊維で認められた、形状と大きさに基づく知見の法則性が、炭素を主成分とする繊維にも適用され得る可能性を示したと考えている。現在、繊維数あたりの用量反応性についても調べているところであり、最新の知見についても紹介したい。一方、ガラス繊維など、体内での変性、分解、排泄等がアスベストと比較して相対的に早いものでは、ヒトにおける発がん性は著しく低いか、殆ど認められないことも報告されており、10年単位で見た長期の生体内運命を明らかにすることも重要な研究である。国を挙げてのナノマテリアル産業振興推進による経済的繁栄と国民の安全を同時に満たす最善策として、有害性と暴露(予測を含む)に関しての必要な研究の更なる推進、そして開発・製造者との相互情報交換を逐次する体制の充実が緊要と考えられる。
シンポジウム
シンポジウム 1
毒性オミクス[共催:毒性オミクスフォーラム]
  • 矢本 敬, 安藤 洋介, 清沢 直樹, 真鍋 淳
    セッションID: S1-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発の初期段階より候補化合物のヒトでのリスク評価をin vitro系、あるいはin vivo系を用いて実施することは、臨床試験に参加する治験者の安全性を担保する目的の他、開発の成功確率向上、さらには開発費用の効率化にも極めて重要である。げっ歯類、非げっ歯類を用いた安全性試験では血液学的検査、血液化学的検査、尿検査、病理学的検査等のデータより標的組織を確定し、適切な毒性バイオマーカーを選択することでヒトでのリスクを評価している。トキシコゲノミクス(網羅的遺伝子発現解析)、トキシコプロテオミクス(タンパク質発現解析)およびトキシコメタボノミクス(内因性代謝物質解析)では一度の解析により大規模データが得られることから、候補化合物のランクオーダー評価、毒性発現機作解明のみならず、まったく予測しなかった毒性の早期検出、あるいはヒトへの外挿性(種差)にも有効な情報を提供できる可能性を有している。本シンポジウムではこれらのオミクス技術を用いた肝障害評価の毒性バイオマーカー探索に関して近年の知見を交えて概説する。
  • 上原 健城, 丸山 敏之, 馬場 隆彦, 加藤 育雄
    セッションID: S1-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    薬剤誘発性腎障害は,創薬において最も注意すべき副作用の一つである.従って,創薬の現場に於いて,より安全な医薬品をより早く創製するという製薬企業の社会的使命のもと,創薬研究の初期段階に,開発候補化合物の腎障害誘発リスクをいち早く見極め,腎毒性リスクのない化合物を効率的に選び出すことが肝要である.一方,近年,トキシコゲノミクスによる網羅的遺伝子発現解析の手法が発達し,本手法を用いた腎障害,特に尿細管障害におけるバイオマーカー遺伝子の探索が積極的に行われたことにより,従来型の毒性評価では困難であった腎毒性の早期予測を可能とするバイオマーカー候補遺伝子が多数見出されてきている.このことは,我々が,これらの研究成果を医薬品の安全性評価に繋げるための条件が整ってきたことを示している.当社では,現在,薬剤誘発性腎障害の評価に,トキシコゲノミクスによる網羅的遺伝子発現解析を応用するための基礎検討を実施している.本シンポジウムでは,薬剤誘発性の腎障害評価におけるトキシコゲノミクスについて近年の知見を交えて概説するとともに,当社での開発候補化合物の探索毒性評価における活用事例についても言及する予定である.
  • 菅野 純
    セッションID: S1-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    現在の分子毒性学は、生体反応メカニズムに踏み込み、受容体、転写因子等との選択的結合によるシグナル伝達障害などの標的特異性の高いものや、エピジェネティックな遅発影響なども直接的な対象とするようになり、基礎分子生物学と直結する時代に入っている。特に見落としの無い網羅性が要求される毒性学では、全遺伝子のカスケード解明がその最終目標となる。
    分子毒性メカニズム解析のためのツールの1つにmRNAを対象とするトキシコゲノミクスがある。この研究を進めるにあたってはデータを既知情報により分類・解析するアプローチは最後に回し、上述の如く網羅性を重んじ、先ずはトランスクリプトーム情報そのものから生物学的に有意な一連の反応を教師無しクラスタリング手法などを駆使して抽出するアプローチを採用した。これは電子顕微鏡写真が世に現れた時の状況になぞらえることが出来る。光学顕微鏡では見えない「もの」が新たに見える様に成った訳であるが、それが何であるかは光学顕微鏡像を参照しても簡単には分からず、電子顕微鏡像を蓄積・解釈しコンセンサスとしての教科書(図譜など)が出来上がって初めて日常的に利用されるようになった。トキシコゲノミクスにおいても同様に教科書、即ち、ある程度の量のデータ蓄積と解析のための基礎研究が必要である。
    我々は遺伝子発現データの互換性を確保するPercellome手法を開発し、現在までに、90以上の代表的化学物質(医薬品、一般化学物質、食品関連物質を含む)について単回強制経口投与による肝の初期反応データを中心に採取している。その際、異なったプロトコールで異なった生体組織に対して行われた実験の間でも、共通の分子メカニズムが抽出されることを見ており、今後の全データに亘る複合的解析展開に大きな期待を抱いているところである。ここでは概要と、そこから派生するこれからの毒性学の一つの展望を提示させていただきたい。
  • 北野 宏明
    セッションID: S1-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    進化し最適化への道を歩む複雑系には、幅広い擾乱に対してロバスト性を確保すると同時に想定外の擾乱に対して非常に脆弱になるというロバストネス・トレードオフが存在する。これは生物に普遍的に当てはまる法則ではないかと考えている。これが正しければ、この特徴は、創薬戦略を考える上で、非常に重要なことを意味している。つまり、ターゲットとなる細胞・組織が、ロバストに対応できるタイプの擾乱は、多くの場合、有効性を十分にあげることができず、その擾乱が、ある種の細胞の脆弱性を攻撃してしまった場合に副作用が発生するということである。
    薬剤の有効性と副作用の事例研究と細胞内相互作用ネットワークとドラッグターゲットや疾病原因遺伝子の関係の研究から、この仮説が正しいのではないかとかんがえている。 これは、創薬戦略に大きく影響を与える。つまり、創薬ターゲットの選択や複数のターゲットに対する相乗効果を得るアプローチへの展開など大きな発想の転換を迫られる可能性がある。

    Kitano, H, A robustness-based approach to systems-oriented drug design, Nature Reviews Drug Discovery 6 , 202-210 (March 2007)

    Kitano, H.. Biological Robustness. Nature Review Genetics. 5, 826-837, 2004

    Kitano, H. Cancer as a robust system: implications for anticancer therapy. Nature Reviews Cancer. 4, 3, 227-235, 2004.
シンポジウム 2
レギュラトリーサイエンスにおける有害性評価・予測
  • 蒲生 昌志
    セッションID: S2-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     リスクトレードオフとは,あるリスクに対処しようとして,別のリスクが生じてしまい,リスク削減の効果が限定的であったり,逆にリスクが増えたりするような状況のことを言う.たとえば,シロアリ防除剤の事例で,有機塩素系の薬剤クロルデンが難分解性・蓄積性・発がん性の懸念から禁止された際に,代替として登場としたのは主として有機リン系の薬剤であった.しかし,それらは神経毒性を有しており,必ずしもリスクが小さいものではなかった.
     このようなリスクトレードオフを解析するためには,次の二つの特徴を有した新たなリスク評価・有害性評価方法が必要であると考えている.
     まず,リスクの大きさの物質間の相対比較が可能であること.一般的に行われている評価方法では,物質ごとに評価のエンドポイントを決定して,安全側の推定のもとにリスクの判定を行なっている.このような方法ではリスクの大きさを相互に比較することができないため,我々は,比較を可能にするためのリスクの指標として,主たる影響が類似している物質間では毒性等価係数のようなもの,異なる種類の影響を有する物質間ではQALY(質調整生存年数)を用いることを考えている.また,安全側推定はリスクの相互比較の観点から問題が大きいことから,それらを排して,確率論的な期待値と不確実性の分布による評価を導入する.
     次に,少ない情報での評価が可能であること.従来の評価方法では,スクリーニングの評価を別にすれば,情報が少ない場合には「リスク評価ができない」という結論に陥りがちであった.しかし,現実には,物質の代替は,むしろ情報が少ない物質への代替である.我々は,少ない情報で行なう評価における不確実性の大きさを定量的に見積もる手法を開発することで,それを前提にしたリスク管理が可能であると考えている.
  • 藤巻 秀和
    セッションID: S2-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    近年、比較的低濃度の化学物質の長期的曝露による健康影響を評価する必要性が強く求められている。また、化学物質過敏症、シックハウス症候群や内分泌かく乱物質の環境影響研究からもうかがえるように、ある種の環境汚染物質に対しその影響を受けやすい要因(高感受性要因)の存在することが推測されている。多種類の低濃度化学物質の長期曝露による健康影響を評価するためにも、高感受性の要因を解明するための研究は不可欠である。われわれは、胎児・小児・高齢者やなんらかの遺伝的素因の保持者などの化学物質曝露に脆弱な集団の高感受性要因の解明を進め、高感受性の程度を把握し、感受性の個人差を包含したリスク評価や環境リスク管理対策の検討に必要となる科学的知見を提供する研究を一昨年度より行っている。具体的には、1)胎生期、幼児期、小児期、老年期、あるいは次世代に代表されるような時間軸の違いに着目し、化学物質曝露に対する感受性の差異を定量的に明らかにし、高感受性の決定要因を探索するものである。子供は種々の臓器や器官が未熟なため化学物質の影響を受けやすく、また、成人してからその影響が現れる可能性があるからである。2)低濃度の化学物質に対して過敏に反応する遺伝的な要因を解明するために、脳・神経系、あるいは免疫系の過敏状態を評価できるモデルの開発、および有害性の検証をすることである。3)環境化学物質と他の感受性にかかわる要因との複合曝露に基づく健康影響を評価する手法の開発、体内動態の測定および曝露評価のための手法の開発を行うことである。これまでの研究成果の概要報告と討論を行う予定である。
  • 北嶋 聡, 菅野 純
    セッションID: S2-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品、食品、化粧品、生活関連用品、環境化学物質等、様々な物質が身体に取り込まれた際に生じる生体反応を予測し、それらの使用に際しての毒性発現を未然に防ぐのが毒性学の役割である。具体的には、使用法(用途)や使用量(残留量)を制限し、あるいは禁止するための科学的根拠を提供するが、その際、人の身代わりとして実験動物を用いる場合が多い。従来の毒性評価は、個々の動物の症状や病変を診断することにより行われ、その精細化の一環として、加えてのトキシコゲノミクス研究が進められている。ここでは、生体反応をトランスクリプトームすなわち、DNAから転写されるmRNAの種類と量の変動として観測・解析する。このアプローチの特長は、1)最終病変に至る過程が詳細に追跡できること、2)変化の記述にとどまらず分子生物学的メカニズムとして毒性を理解しうること、にある。そのため、比較的短期の実験から慢性毒性が予測可能となる。また、複合影響の理論的予測が可能となる。あるいは、分子毒性学の構築による種差や個体差の問題の解決が進むなどの利点が見込まれる。このためのマイクロアレイ技術は、ほぼ全ての遺伝子に関する発現情報の収集が可能であり、網羅的な検索が必須である毒性学に好都合である。上記1)、2)のためには、遺伝子発現カスケードの全容解明を目指す必要があり、纏まった量のデータの蓄積が必須である。マイクロアレイや定量PCRから細胞1個当たりのmRNAコピー数を得るPercellome手法と、そのデータ解析の為のMillefeuille システムの実用化により、数年かけて蓄積したデータの有機的解析が可能となった。現在までに、90種以上の化学物質のマウス肝の初期応答データを採取し、さらに反復投与、胎児毒性、吸入毒性、多臓器連携データを加えて検討している。ここでは、本プロジェクトの概要と展望を述べる。
シンポジウム 3
Fetal Basis for Adult Disease (化学物質の発生期曝露による大人での異常)
  • Blumberg Bruce, Iguchi Taisen, Watanabe Hajime, Kanno Jun, Gruen Felix
    セッションID: S3-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    Obesity and metabolic syndrome diseases have exploded into an epidemic of global proportions. Consumption of calorie-dense food and diminished physical activity are accepted as causal factors for obesity. But could environmental factors expose preexisting genetic differences or exacerbate the root causes of diet and exercise? The “obesogen hypothesis” proposes that environmental chemicals may perturb lipid homeostasis, adipocyte development, or adipose tissue function. Exposure during sensitive developmental windows could result in permanent metabolic changes that increase fat storage. We identified organotins as a novel class of obesogens and showed that the nuclear receptors, RXR and PPARγ are high-affinity molecular targets of tributyltin (TBT). RXR-PPARγ signaling is a key component in adipogenesis and the function of adipocytes. Thus, inappropriate activation of RXR-PPARγ has the potential to strike at the heart of adipose tissue homeostasis. Our results show that TBT promotes adipocyte differentiation, modulates adipogenic genes in vivo, and increases adiposity in mice after in utero exposure. These results are consistent with the environmental obesogen model and suggest that organotin exposure is a previously unappreciated risk factor for the development of obesity and related disorders.
  • あべ松 昌彦, Hsieh Jenny, Gage Fred H., 河野 憲二, 中島 欽一
    セッションID: S3-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝子発現はクロマチンを構成するヒストンのアセチル化や脱アセチル化によってそれぞれ正、負に精妙に制御されている。我々はヒストン脱アセチル化酵素阻害剤により神経幹細胞内のヒストンアセチル化状態を亢進させ、それが分化に及ぼす影響を検討した。実験には長らく抗癲癇薬として利用され最近ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としての活性が明らかにされたバルプロ酸を使用した。その結果、バルプロ酸による神経幹細胞の劇的なニューロン分化促進が観察された。さらに神経幹細胞の分化をグリア細胞(アストロサイト及びオリゴデンドロサイト)へと向かわせる培養条件下においてもバルプロ酸はグリア細胞分化を阻害しつつニューロン分化を促進できることが分かった。ところで、損傷脊髄などでは神経幹細胞からアストロサイトへの分化を誘導するIL-6を含めた炎症性サイトカインの高発現が誘導される。そのため内在性及び移植神経幹細胞のほとんどがアストロサイトへと分化してしまい、結果としてグリア性瘢痕を形成することで、ニューロン新生や軸索伸長が妨げられてしまうという問題点が明らかとなっている。そこで我々は「アストロサイト分化を抑制し、ニューロン分化を促進できる」というバルプロ酸の作用に着目した。そこで、脊髄損傷モデルマウスにバルプロ酸処理した神経幹細胞を移植したところ、通常はほとんど見られないニューロンへの分化が観察され、また非移植対照に比して顕著な下枝機能回復が見られた。以上の結果は、抗てんかん薬バルプロ酸の新たな用途として、損傷神経機能回復へと応用できる可能性を示唆している。
  • 大迫 誠一郎, 菅井 恵津子, 阪田 佳紀, 松田 佳奈, 吉岡 亘, 掛山 正心, 遠山 千春
    セッションID: S3-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    胎生期にダイオキシン類に曝露された実験動物では、成熟後の変異原物質投与による腫瘍の発生率が胎生期に曝露されていない対照群に比べて著しく高くなることが知られている。またこのような処置動物では、変異原の代謝活性化を司る肝臓内のシトクロムP450 1A1 (CYP1A1)遺伝子発現誘導が、変異原投与後の経時変化をとった場合対照群より長引くことも報告されている。発癌感受性の亢進にはこの現象が関与すると考えられるが、CYP1A1遺伝子誘導の延長がなぜ起こるのかその分子機構は不明である。本研究ではC57BL/6Jマウスをモデル動物として、肝臓ゲノムのエピジェネティックな変化の関与を検討した。妊娠13日目にTCDD(3μg/kg)またはビークルを投与し、生まれた雌を117-120日齢まで飼育した。この成熟個体に対して、再びTCDD(100 ng/kg)を投与し、肝臓内遺伝子変動を経時的に観察したところ、胎生期にTCDD曝露された個体ではCYP1A1 mRNAレベルの減少が遅いことが確認できた。一方CYP1A2やCYP1B1では対照群との差はなかった。この動物から肝臓ゲノムDNAを抽出し、CYP1A1プロモーター領域のメチル化パターンを解析した。マウスCYP1A1プロモーター領域(-1500bp)には-1300~-400において著しいCpGアイランドがあり、この中に8個のダイオキシン応答性配列(XRE: CACGCNW)が存在する。-1154~-458領域を解析したところ、マウス肝臓ゲノムDNAではTCDDの曝露非曝露に関わらず、XRE自身のメチル化は観察されなかった。しかし、胎生期にTCDD曝露受けたマウスの群ではメチル化の頻度が低くなる傾向が観察された。特に-500に位置するCpGのメチル化は対照群で33.3%と高い頻度であったものが、胎生期TCDD曝露により7.5%に減少していた。この胎児期TCDD曝露による低メチル化はCYP1A1遺伝子の誘導延長の分子機構の一つかもしれない。
  • 渡邉 肇
    セッションID: S3-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     化学物質の曝露は、急性毒性や発癌にとどまらず、様々な恒久的な影響が懸念されてきている。特に胎児期や新生児期の曝露影響が成熟時の疾患につながる可能性も指摘され、Fetal basis for adult diseaseとよばれる新たな概念の研究が始まっている。さらに、こうした化学物質の影響は、曝露を受けた世代だけにとどまらず、世代を超えて子孫につながるという報告もなされてきており、こうした化学物質影響が長期にわたり影響をおよぼす作用メカニズムの解明が必要となっている。  我々は化学物質曝露の長期的な影響のモデルとして、ホルモン様化学物質の影響について解析を進めてきている。女性ホルモンであるエストロゲンやホルモン関連物質を新生児期のマウスに曝露した場合、成熟期に達すると連続発情の状態となり、膣上皮はエストロゲン非依存的な増殖が続く。この新生児期エストロゲン曝露をモデルとし、膣における長期的な影響の解析をすすめてきている。新生児期曝露のマウスから得られたDNAマイクロアレイによる遺伝子発現プロファイルの解析などから、新生児期曝露により、遺伝子発現が長期的に変化していることが明らかになってきた。これは、新生児期の曝露によりエピジェネティクな変化が生じていることを示唆している。そこで、発現が変化した遺伝子を中心として、ヒストン修飾やDNAのメチル化状態などを含めたクロマチン構造の変化を詳細に検討し、化学物質曝露がエピジェネティックなプログラムに及ぼす影響について解析を進めている。
ワークショップ
ワークショップ 1
核酸医薬品の安全性評価
  • 山口 照英, 内田 恵理子
    セッションID: W1-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     ヒトゲノム解析の成果や遺伝子発現制御に関しての知見の集積を受け、核酸、あるいは核酸と他の物質との複合製品を用いたいわゆる核酸医薬品の開発が急速に進展している。アンチセンス医薬品やリボザイムなどの開発から、siRNAによる遺伝子発現抑制やマイクロRNA(miRNA)による遺伝子発現制御機構の発見などを応用した製品や、標的タンパク質との特異的な結合能を持つ人工核酸分子など多様な製品の開発が試みられている。既に、加齢性黄斑変性症を適用とするアプタマーがFDAで承認を受けている。このように開発が進む核酸医薬品に関してその品質・安全性・有効性評価に当たっての要件について考察することは今後の核酸医薬の発展に寄与するものと思われる。  本講演では、核酸医薬の開発動向を紹介したえで、その安全性評価や品質確保のあり方について考察してみたい。特に、品質確保における生物活性評価方法、アンチセンスやRNAi医薬品を用いた遺伝子発現抑制に関して、特性解析や安全性面での評価における動物モデルでの外挿性やヒト細胞・組織の利用のついて考察したい。また、核酸医薬をより有用なものとしていくために開発が急がれているDDSについても、どのような問題点が考えられるのかについて概説したい。
  • 大谷 章雄
    セッションID: W1-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    核酸医薬品にはアンチセンス、アプタマー、RNAi等のオリゴヌクレオチド(OND)が含まれる。ONDは核酸塩基を基本骨格としているという点からアミノ酸で構成されているタンパク・ペプチドを対象とするバイオ医薬品や従来の一般化学合成医薬品のいずれとも異なっている。さらに作用様式においても、アプタマーはタンパクに結合してその作用を抑制するという点で抗体医薬品と似ているが、アンチセンスやRNAiは細胞内に取り込まれてから生体内核酸に直接作用するというその作用様式は、バイオ医薬品や従来の一般化学合成医薬品のいずれとも異なっている。それ故、このような構造上の違いや作用様式の違いから考えられる安全性の懸念事項についての考慮が必要である。バイオ医薬品のためのICH-S6ガイドラインや一般化学合成医薬品に対するその他のICH-Sガイドラインを核酸医薬品の安全性評価にそのまま適用することには限界があり、核酸医薬品の特徴に対応すべく策というものを作り出していく必要性があるものと思われる。 日本製薬工業協会・医薬品評価委員会・基礎研究部会・新技術等の普及検討対応チーム(T-5)では、核酸医薬品について非臨床試験での安全性評価のあり方について検討を行っている。核酸医薬品の薬理作用上からのカテゴリーだけでなく、分子構造上核酸医薬品としての本体が天然型ヌクレオチドなのか、天然には存在しない化学修飾されたヌクレオチドかどうかによってその対応は異なるであろう。本ワークショップでは、これらを考慮して核酸医薬品の安全性評価における留意点や課題を、動物種の選択,相同核酸についての検討、薬物動態試験、安全性薬理試験、一般毒性試験、および特殊毒性試験のそれぞれについて提言したい。
  • Scott Henry
    セッションID: W1-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
    The application of antisense inhibitors of gene expression while simple in concept and potentially broadly enabling, still faces the same challenges as any pharmacologic agent. In context of therapeutic discovery these challenges include selection of potent inhibitors, pharmacologic specificity in early in vitro/in vivo pharmacology models, relevance of gene target, tissue distribution and cell uptake, target organ toxicity and therapeutic index for specific indications. This presentation will highlight the potential contributions of this technology, particularly in terms of regulating the expression of genes that are not easily inhibited with traditional approaches. Examples of disease studied include treatment of viral disease, cancer, inflammation and metabolic disease. Antisense oligonucleotides have also been studied using multiple routes of administration, including oral. The toxicity studies performed cover the full spectrum of regulatory safety studies. The study design aspects unique to antisense oligonucleotides will be discussed in the context of general preclinical development strategy. This will include the use of species active surrogate inhibitors. The toxicities common to this class of compound will be described in the context of toxicokinetic and toxicodynamic relationships. The impact of these changes of safety assessment depends greatly on the intended indication, route of administration, and duration of treatment. A prospective look at potential for near-term and long-term applications, along with future directions, will be provided.
  • 矢野 純一
    セッションID: W1-4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     RNAi現象を応用したsiRNA医薬品は、抗体医薬品に次ぐ次世代の新規薬物治療法として注目されている。現在、欧米ではsiRNAやアプタマーなどRNA医薬の開発競争は熾烈であり、Tuschli)らが2001年にNature誌に初めて論文発表したsiRNAは、すでに米国ではフェーズIIIにまで開発が進んでいる。RNAi薬剤開発において、解決すべき重要な課題は、第一に、高純度なRNAを大量かつ安価に合成する方法論の確立であり、第二に、標的部位の細胞に効率的に高い安全性を持ってRNAを導入できるドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発である。
     我々は、第一の課題に対して、新たなRNA合成法の開発を行い、2-cyanoethoxymethyl(CEM)基を新規保護基として有するアミダイトを用いることによって、合成法が完成されたDNA合成に匹敵する高純度かつ高収率を特長とするRNA合成法を確立した。さらに第二の課題に対して、我々はこれまでに第一世代のRNA医薬品として平均鎖長250の二本鎖RNA(poly(I):poly(C))とカチオニックリポソーム(LIC-101)の複合体の臨床試験を行っており、このときに開発したヒトへの全身投与が可能な安全性の高いDDSを応用したRNAi医薬品開発に取り組んでいる。
     本講演では、核酸医薬品の特性に重点を置いた上で、これらの自社基盤技術の基に、RNA医薬品開発の現状と課題について紹介したいと考えている。

    i)Tuschl, T. et al : Nature, 411 : 494-498, 2001
ワークショップ 2
小児医薬品開発における課題
  • 越前 宏俊
    セッションID: W2-1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     新生児期から成人に至る過程で、ヒトは身体的特性の大きな変化とともに身体の生理機能の質的および量的な変化を経験する。従って、成長期のヒト(小児)における治療の個別化と副作用の回避への方法論では、成人における薬物動態(PK)と薬力学(PD)の集団代表値をどのように各年齢の小児に外挿するかが問題となる。例えば、体内動態値を例に議論する場合には体内動態パラメーターを体重で標準化すべきか動態過程に関連する臓器重量で標準化すべきかが問題となる。また、高齢者でもしばしば問題となるが、PK理論にもとづく成人投与量の小児への外挿にはこの集団のPD特性が成人と類似しているかも問題となる。高齢者においては動態試験の義務化によりPKデータは徐々に蓄積されているが、PDデータの蓄積は未だに不十分である。小児においては動態試験の倫理的および実際的な困難さもありPKデータさえも不十分な薬物が多く、ましてはPDデータについては報告されてものは極めて限られている。
     小児におけるPK/PDデータにおいてさらに悩ましいのは、薬物の動態過程に関係する機能分子が時間的に異なる発達変化をたどる可能性が高いことである。この問題については薬物代謝酵素の研究が最も進んでおり、特に新生児から生後1才以下の小児においては肝細胞の薬物代謝酵素分子種の発現量の発達には分子種差が存在することが示唆されている。一方、薬物の体内動態あるいはPDの個人差に関わることが注目されているトランスポーター蛋白においては発達変化の研究は少ない。このような、ヒト小児の発達に伴う身体変化と薬物のPK/PDの変化を薬物の副作用予測の観点から述べる。
  • 中村 秀文
    セッションID: W2-2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
    会議録・要旨集 フリー
     子どもに対する薬の用法・用量、有効性・安全性を評価・確認するためには、治験・臨床試験の実施が必要不可欠である。しかしながら現状では、小児での治験が実施されないまま、多くの医薬品が小児に適応外使用されている。現在、この適応外使用を解決し、小児治験を推進するために、様々な取り組みが行われているところであり、質の高い小児治験の迅速な実施のために、国立成育医療センターを中核病院とし、小児治験のネットワークが構築されようとしている。
     小児医薬品の開発を本格的に進めるためには、小児治験が推進されるのみならず、非臨床試験の在り方についても、見直しが必要かもしれない。非臨床試験はヒトにおける有効性と安全性を予測するために行われるが、1)それぞれの動物種における試験結果が必ずしも同一でない、2)動物試験により導かれた安全性上の懸念(奇形や有害事象など)が、ヒトと一対一対応していないことも多い、など臨床現場から見て非臨床試験の結果は解釈が困難なことが多い。また動物試験の結果をうけて、小児における開発が中止されたニューキノロン系抗生物質や、1歳未満に対するオセルタミビル等のように、ヒトにおいて想定されるリスクベネフィットの十分な評価が行われずに、小児での開発が中断されているようにも感じられるケースもある。現場のニーズと、非臨床試験のシグナルを秤にかけ、小児における開発の必要性について十分な検討が行われるべきであろう。またヒトでの有効性・安全性をより正確に推測できるような実験系が開発されることも、小児医薬品開発のために必須であると考えられる。
     我が国では小児治験実施に際し、一律に幼弱動物試験の実施を規制当局が求めているとの批判もあるようである。小児医薬品開発における、非臨床試験の位置づけなどについてもより踏み込んだ議論が行われ、より適切な体制が整備されることを期待している。
  • 下村 和裕
    セッションID: W2-3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/06/25
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     医薬品は成人だけではなく小児にも使用されるが、これまでは開発段階においては成熟動物を用いた非臨床試験および成人による臨床試験のみが行われ、小児での使用について十分に検討されていないことが多かった。薬物によっては小児では薬効が無いばかりでなく、安全性に問題がある場合もあった。このことの反省から、臨床では2000年ICHのE11ガイドライン「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて」が通知され、小児治験の指針が示された。非臨床においては2003年米国FDAから幼若動物試験法ドラフトガイダンスが公表され、その後、2006年に最終化された。欧州においても2005年、EMEAからドラフトガイドラインが出された。日本においてはこれまでのところ、行政からの方向性は示されていないが、2007年、製薬協から「幼若動物毒性試験について」が出されている。
     この講演ではFDA、EMEAおよび製薬協から提示されている幼若動物試験法を比較検討した結果を報告したい。すなわち、いずれも小児適応のために必ず幼若動物試験が必要とはしておらず、その医薬品を小児に使用するための情報が十分でない場合、および生後に発達する器官(神経、生殖器、骨格、肺、免疫、腎、心、代謝系など)への副作用が危惧される場合に実施すべきとされている。動物、投与および観察など基本的な試験デザインは3者ともほぼ同様であるが、高用量の設定には考え方の違いがみられた。すなわち、FDAおよび製薬協では高用量には明らかな毒性がみられる量が望まれているが、EMEAでは明らかな毒性が生じない量とされている。この相違は、幼若動物試験の目的として発達器官における新規毒性の検出、または成熟動物と比較した場合の毒性の増強の有無のいずれかにより重点をおくかによるものと考えられる。また、製薬協案の試験デザイン例についても紹介したい。
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