日本トキシコロジー学会学術年会
第35回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: CS3-3
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「子ども」の発達に胎生期環境と遺伝子がどのように影響するか
生殖補助医療と発生異常
*塩田 浩平山田 重人
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キーワード: 生殖補助医療, 発生異常
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抄録

 体外受精(IVF)に代表される生殖補助医療(ART)は、不妊患者に対する有効な治療法として広く用いられており、全世界でこれまでに推定100万人以上がARTによって出生している。ARTの技術には絶えず改良が加えられており、その成功率や安全性には著しい進歩が見られる。ARTによって生まれた児の大多数は健康に生まれているが、その一方で、ARTがある種の異常のリスクを上昇させる可能性を疑った研究が近年報告されている。
 多数のART出生例について発生異常を調べた研究を見ると、一般集団に比べて異常の頻度に差がないとする報告がフランス、オーストラリア、フィンランド、スペイン等からなされている。一方、IVF、細胞質内精子注入法(ICSI)によって生まれた児には先天異常が一般集団の約2倍の頻度で見られるとする報告がある。神経管奇形、腹壁裂、結合双胎など特定の異常や低体重出生との関連を疑った報告も散見される。
 さらに近年、ARTとゲノムインプリンティング(genomic imprinting)の異常との関連を疑う論文が相次いで発表され、ARTの安全性について新たな課題を投げかけている。実験的にも、胚培養やクローニング技術が胚細胞のDNAメチル化に影響を及ぼすとのデータがある。クローン動物に見られる過成長や胎盤形成異常についても、インプリンティング異常との関連が指摘されている.また、インプリンティングを受けるある種の遺伝子は癌抑制に関与することから、ARTと発癌との関連も重要である。
 現在ARTのリスクファクターが十分明らかでないことから、ARTの胚発生に及ぼす影響についての基礎的な研究データを蓄積すると共に、ARTによって生まれた児の発生異常、発育、精神神経発達、発癌等に関する長期フォローアップとデータベースの構築が望まれる。

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© 2008 日本毒性学会
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