日本トキシコロジー学会学術年会
第35回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: P-090
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薬物代謝
2つの異なる遺伝子変異がもたらすラットCYP2D依存の薬物代謝活性の系統差及び個体差
*酒井 紀彰斎藤 愛坂本 健太郎石塚 真由美藤田 正一
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抄録
Cytochrome P450 2D(CYP2D)分子種は、医薬品の約30%を代謝する一方で、人で多くの遺伝多型が報告されている。本研究では、薬物代謝においてラットCYP2D分子種が系統差及び個体差を引き起こす異なる二つの機構を明らかにした。
Dark Agouti(DA)ラットは、CYP2D分子種の中でもCYP2D2mRNA及びその蛋白質発現量がSprague-Dawley(SD)ラットと比べ著しく低いため、ヒトCYP2D6の代謝欠損者のモデル動物として用いられてきた。しかし、DAラットでCYP2D2mRNA発現量が低い原因は未だ明らかではない。我々は、DAラットのCYP2D2遺伝子の5’上流に、SDラットにはない一塩基置換を見出した。ゲルシフトアッセイにおいて、この置換は転写因子/DNA複合体の形成を低下させた。CYP2D2遺伝子の5’上流の欠失変異体を用いたレポーターアッセイの結果、この置換により転写活性が約1/5に低下した。よって、CYP2D2遺伝子の転写調節領域内の一塩基置換が、DAラットでCYP2D2mRNA発現量が低い原因である事が明らかとなった。
一方、CYP2D分子種はジアゼパムp位水酸化に関与する事が報告されている。我々は、p位水酸化が低基質濃度では主要な代謝経路であり、かつ著しいラットの系統差及び個体差(約300倍)を示すが、CYP2D2の発現量の差では説明できない事を見出した。さらに、ウエスタンブロット法を用いて、高活性個体の肝臓に特異的に発現する蛋白質を単離した。アミノ酸シークエンスで決定したN末端配列は、CYP2D3の配列と完全に一致した。しかし、CYP2D3mRNA発現量とp位水酸化活性との間に相関は見られなかった。DNAシークエンス解析の結果、低活性個体ではCYP2D3のコード領域に一塩基挿入が見られ、ヘム結合領域を欠損した不完全な蛋白質が合成される事が予想された。従って、ジアゼパムp位水酸化においては、CYP2D3コード領域の一塩基挿入が系統差及び個体差を引き起こす事が明らかとなった。
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© 2008 日本毒性学会
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