抄録
【目的】HMG-CoA還元酵素阻害剤 (スタチン系薬物) は、代表的な高脂血症治療薬として汎用されている。しかしながら、スタチン系薬物に共通する重篤な副作用に横紋筋融解症が知られており、適正使用が喚起されている。現在のところスタチン系薬物による筋障害の明確な発生機序は不明であり、また、新規スタチン系薬物であるpitavastatinの骨格筋細胞障害性に関するエビデンスは極めて少ない。本研究では、pitavastatinを含む全8種のスタチン系薬物を、副作用である骨格筋細胞障害性および主作用であるコレステロール低下作用の両面から比較し、スタチン系薬物の安全かつ有効な使用の一助とすることを目的とし種々検討を行った。
【方法】実験にはヒト骨格筋由来細胞RDおよびヒト肝臓由来細胞HepG2を用いた。終濃度1-100 µMとなるように調製したスタチン系薬物を両細胞に添加し、24-72時間後の骨格筋細胞障害性およびコレステロール低下作用を検討した。骨格筋細胞障害性は、生細胞数をMTT assayにより、アポトーシスをcaspase-3/7活性を測定することにより評価した。細胞内への薬物蓄積量はHPLCを用いて定量した。一方、コレステロール低下作用は、Cholesterol assay kitにより細胞内コレステロール量を測定した。
【結果・考察】Pitavastatinを含めたスタチン系薬物による骨格筋細胞障害には、細胞の球状化およびcaspase-3/7活性の上昇を伴うアポトーシスの関与が示された。また、スタチン系薬物間において筋障害の強さと薬物の分配係数は高い相関性を示し、スタチン系薬物の筋細胞内蓄積量に依存することが明らかとなった。一方で、スタチン系薬物による筋障害性と細胞内コレステロール低下率に相関性は認められなかった。以上の結果より、本知見が筋障害性およびコレステロール低下作用を考慮したスタチン系薬物の適正使用に寄与することが期待される。