抄録
[目的] 我々は、先の本学術集会において、注射剤の単回投与による血管刺激性を評価する方法として、注入法 (シリンジポンプを用いて被験物質を一定時間注入する方法) が有用であることを報告した。一方、静脈内投与では、注射剤が皮下に漏れる可能性がある。そこで、注射剤の安全性評価方法の1つとして、血管刺激性試験で陽性対照物質として汎用されるBromosulfophthalein sodium (BSP) を静脈周囲皮下に単回投与してその局所傷害性を検討するとともに、その検出力を静脈内投与と比較検討した。
[方法] 雄の日本白色ウサギ (Kbl:JW) を用いた。右後耳介静脈周囲皮下には2 mg/mLあるいは10 mg/mLのBSP 0.3 mLを単回投与した。左後耳介静脈内には10 mg/mLあるいは50 mg/mLのBSPを注入法 (1 mL/min、3分間; 3 mL) で単回投与した。投与1、2、3、5、7、10及び14日後に投与部位の紅斑、血管 (後耳介静脈、中心静脈、細血管) の拡張、血栓の有無を観察し、回転式厚み計により耳介の投与部位の厚みを測定した。また、投与2及び14日後に、病理組織学的検査を実施した。
[結果] 静脈周囲皮下投与あるいは静脈内投与により炎症が認められ、静脈内投与では血栓も認められた。また、BSPの濃度に依存して両投与経路とも炎症の程度が強くなった。静脈周囲皮下投与と静脈内投与を比較した結果、同一濃度 (10 mg/mL) においては、静脈周囲皮下投与の方が、静脈周囲組織の炎症の程度が強かった。
[結論] 今回実施した静脈周囲皮下投与では、静脈周囲組織の炎症が認められ、被験検体の局所傷害性に応じてその程度が変化したことから、単回投与による血管周囲刺激性の評価が可能であると考えられた。したがって、注射剤が皮下に漏れた場合の静脈周囲組織に対する局所傷害性は、静脈周囲皮下投与による評価が有用であると考えられた。