抄録
小児科領域における抗癌剤で腎尿細管障害を惹起する代表的薬剤にcisplatin とifosfamideがある。Cisplatinの主要障害部位は、腎髄質外帯の近位尿細管(S3 segment)で、尿細管からのMg排泄増加による低Mg血症が、投与例の約半数に認められる。この低Mg血症は、低Ca血症と低K血症を伴うことがある。腎機能障害は、一過性のことが多いが、総量依存性に非可逆的な障害を残し、障害機序は尿細管上皮細胞のapoptosis誘導や炎症による細胞障害が推測されている。他方、ifosfamideは、代謝産物による障害で投与例の1-7%にFanconi症候群に代表される多彩な尿細管障害の結果、電解質、糖およびアミノ酸の喪失、酸血症をきたし、反復投与により慢性腎障害もきたしうる。Risk factorは、総量45 g/m2、3歳未満、Cisplatinの併用、片腎摘と報告されているが、年長児発症、晩期発症例もあり、投与量のみならず長期的な経過観察が必要と考えられる。
私たちは、ICE療法(Ifosfamide、CisplatiあるいはCarboplatin、 Etoposide)後に、Fanconi症候群と低尿酸血症(血清尿酸値2.0mg/dl未満が1週間以上持続)をきたした例を経験した。この例を含め同療法をうけた小児28例で検討したところ、20/28例(71.4%)に低尿酸血症が認められ、血清尿酸値と末梢WBC数、血清K値の間に正の相関がみられた。低尿酸血症をきたしている持続期間は、死亡例(n=3)が長期間でより低値の傾向であった。低尿酸血症群のみに経過中に尿糖や蛋白尿をきたす例が観察された。ICE療法時の低尿酸血症は、骨髄抑制時期や死亡例(非寛解例)において程度が強い傾向が認められ、同療法時の低尿酸血症の意義についても報告したい。