日本トキシコロジー学会学術年会
第36回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S1-3b
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市販前から市販後までに一貫した安全性評価/ファーマコビジランスによる臨床でのリスク最小化へのチャレンジ 非臨床/トキシコロジストは,安全性医師と連携して副作用データをどう読むか
毒性学から臨床副作用学へのアプローチ ‐薬物性肝障害 ;原因究明へのチャレンジ
*松本 一彦
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抄録

2000年3月、糖尿病の新しい治療薬として販売されていたノスカール(トログリタゾン:TOR)が劇症肝炎起因物質ということで市場から撤退した。同年2月、高尿酸血症治療薬ユリノーム(ベンズブロマロン;BNZ)も同じ劇症肝炎で緊急安全情報を出すことになった。年間35万人が使用し、20年以上販売されてきて累積8例の劇症肝炎死亡例が出たということがその理由であった。BNZは本当に劇症肝炎起因物質なのだろうか?その原因追及にとり組んだ歩みを報告する。実験1:BNZの薬効の一つにPPARアゴニスト作用があることから、Reporter gene assayによるsub typeを検討。TORはPPARγ、BNZはPPARαであった。実験2:ラットとヒトの初代培養肝細胞によるアポトーシス試験でTORは両種とも陽性、BNZはヒト細胞では陰性であった。実験3:BNZはBrを有しており、それが外れて劇症肝炎起炎物質Benzaroneに代謝されると言われていた。しかしBrは外れず6位の水酸化体に代謝されることをin vitro, in vivo試験で証明した。実験4:健康人を用いた臨床試験でBNZ原体は尿中には出現せず、代りに6-OH体が発現した。血中濃度も急峻に消失する原体とは異なり6-OH体は緩徐に減衰した。実験5:ヒトの薬物代謝酵素試験でBNZはCYP2C9のみの単酵素代謝を受けることが判明。そこで、5人のBNZ肝障害患者でDNAチップによるPoor metabolizerを探索したが、いずれもWild Typeであった。実験6:2002年遠藤らは、尿細管上皮細胞に尿酸トランスポータ(URAT1)があることを発見。その阻害剤としてBNZは他物質と較べダントツの活性を持ち、さらに6-OH体も強力な阻害剤であった。6-OH体は活性代謝物でありBNZはプロドラッグであることが発売から20年以上経た今日に明らかとなった。しかしBNZが劇症肝炎起炎物質であるという証拠は未だに見つかっていない。今後は特異体質患者を見つける努力をしていく必要があろう。

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© 2009 日本毒性学会
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