抄録
哺乳動物の発生において母体と胎児は独立して存在するのではなく、胎盤を介して母体-胎盤-胎児を一つとしたユニットを形成している。よって、トキシカントによる胎盤の機能低下及び傷害は胎児の発生・発育に重篤な影響を及ぼし、胚子吸収や先天異常を誘発することから、胎盤は胎児毒性を評価する上で重要な組織である。胎盤は妊娠の進行とともに急速に増殖・発達し、血流量が豊富であるため、トキシカントの曝露を受けやすい。さらに、その機能は胎盤関門、栄養輸送、薬物代謝及び内分泌など多彩であることから、胎盤に対して毒性作用を有する物質は多数報告されている。生殖・発生毒性試験において胎盤への毒性影響は一般的に胎盤重量によって評価されている。しかし、病理学的には胎盤重量低下は小胎盤として認められ、組織学的には主として栄養膜細胞のアポトーシス/壊死による迷路層の菲薄化が観察される。実験的には母動物の一般状態悪化による非特異的変化及び各種抗がん剤、グルココルチコイド、カドミウムなどによる胎盤への直接傷害によって誘発される。胎盤重量増加は胎盤肥大として認められ、組織学的には栄養膜細胞の増殖による迷路層肥厚及びグリコーゲン細胞や海綿状栄養膜細胞の退縮抑制による基底層肥厚が観察される。実験的には母体の貧血や低酸素状態に対する代償性変化、胚子減少に起因した二次的変化及び栄養膜細胞傷害やホルモンバランス異常に対する反応性変化によって誘発される。このように胎盤病変及びその原因は多様であり、胎盤の機能低下及び傷害に起因した胎児毒性の機序解明には、胎盤病変の発現感受期と発現部位を同定し、経時的な形態学的変化について検索することが重要である。本シンポジウムではラット胎盤の正常構造、胎盤の毒性学的特徴、実験的に誘発したケトコナゾールによる胎盤肥大、抗がん剤による小胎盤などの形態学的変化及び小胎盤の胎児発育抑制への影響について述べる。