日本トキシコロジー学会学術年会
第36回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S8-1
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ナノマテリアルの毒性学
ナノマテリアルの慢性影響研究の重要性
*広瀬 明彦高木 篤也西村 哲治菅野 純
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抄録

産業用ナノマテリアルはナノテクノロジーの中心的な新規物質として、近年急速にその種類や生産量が増加しつつあるが、産業用途として期待されている物理化学特性は、同一化学組成を持つ大きな構造体とは異なる生理活性やヒト健康影響に対する懸念をもたらす可能性を含んでいる。このような懸念に対して、ナノマテリアルの特性を考慮した有害性評価手法の開発と評価の実施が急務となっている。我々は、本問題に対処するための体内動態モニタリング法、in vitro及びin vivoの評価法開発の為の基礎的研究を進めてきたところである。その過程で、繊維状粒子吸入による慢性影響として懸念される中皮腫形成について、アスベスト同様の大きさと形の繊維を含むカーボンナノチューブが腹腔内投与試験よりそのポテンシャルを持つことを明らかにしてきた。加えて、この研究は短い繊維状のナノチューブやフラーレンが、細胞による貪食作用等を介して体内に再分布する可能性を示唆した。そこで、フラーレン腹腔内投与影響を詳細に解析した結果、体重増加抑制、腎の巣状萎縮、組織学的に尿細管上皮の空胞変性(PAS染色陰性、脂肪染色陰性)~尿細管の萎縮と円柱形成によるネフロン萎縮(thyroidization様)ないし脱落が誘発されていることが示された。細胞質内の空胞形成は、膵ラ氏島や肝細胞などの他の臓器でも観察され、腹腔のフラーレン凝集体が貪食細胞等により細粒化され、全身に再分布して影響を引き起こした可能性が示唆された。 以上より、ナノマテリアルの長期体内残留とそれに対する生体反応の様式が、慢性影響に大きく影響することが示唆された。表面活性の高いナノマテリアルと体内成分(細胞を含む)との基礎的な相互作用、体内残留様式、及び慢性有害性影響の同定は、ナノマテリアルの健康影響評価研究の中で最も重要な検討対象であると考えられる。

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© 2009 日本毒性学会
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