抄録
組織切片中の化合物をMALDI法によってイオン化し、その局在や構造を明らかにするMALDI-MS Tissue Profilingが薬物動態解析などに適用されつつある。しかし、毒性評価に用いられた例は少ない。そこで、本研究では、MALDI-MS Tissue Profilingの毒性評価における有用性を検証することを目的に、Amiodarone誘発性リン脂質症ラット肺を用いたMALDI-MS Tissue Profilingを実施した。
【方法】抗高血圧薬Amiodarone 100、300および1000mg/kg/dayを3日間、雄性ラットに経口投与した。最終投与翌日に剖検し、肺を採材後直ちに液体窒素で凍結、-80℃で保存した。その肺から凍結切片を作成し、ケミカルプリンタを用いて組織切片上にマトリクスを噴霧し、MALDI飛行時間型質量分析装置AXIMA Performanceを用いて肺凍結切片MALDI-MS Tissue Profilingを行った。得られたマススペクトルデータを主成分分析し、媒体対照群および薬剤投与群間において変動した分子の検出・同定を試みた。
【結果および考察】ネガティブイオンのマススペクトルにおいてAmiodaroneの投与量依存的に複数の分子イオンの変動がみられた。得られたデータの主成分分析から薬剤投与群と媒体対照群間のマススペクトルパターンの差異が確認できた。また、ローディングプロットから、その差の要因となったバイオマーカー候補と考えられる分子イオンを検出できた。以上の結果から、MALDI-MS Tissue Profilingは毒性評価においても重要な知見を得ることが可能であると結論した。