抄録
【背景および目的】トキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト(TGP2)は,トキシコゲノミクスデータを用いた安全性バイオマーカーの探索を行い,医薬品開発の効率化を目指す産官共同研究である.本検討では,薬物誘発性の肝脂肪化の診断および予測マーカーの作成を目的に,トキシコゲノミクスデータベースTG-GATEsを用いて解析を行った.
【方法】ラット4週間反復投与後の病理所見より,肝細胞への脂肪蓄積が認められた6化合物を陽性対照とし,うち3化合物を探索に,残り3化合物を検証に用いた.陰性対照には脂肪化を示す病理所見がなく,脂肪肝の文献報告のない10化合物を用いた.探索用の3化合物で増加し,陰性化合物で変動しない遺伝子パターンを作成し,このパターンに相関するプローブを,相関係数を基準に30から120種類抽出した.得られたプローブセットを用いて,Prediction Analysis for Microarray(PAM)およびSupport Vector Machine(SVM)により判別分析を行った.
【結果】PAMでは検証用を含む陽性対照6化合物全てが適切に判別された.一方,SVMでは判別率がやや劣るものの,偽陽性が少ない結果となった.また,これらの判別において,使用したプローブ数により,偽陽性と判別される化合物数に変動が認められたが,陽性対照の判別率には影響しなかった.陽性対照化合物の判別において,低用量では陽性と判別されない例が存在したが,判定スコアには概ね投与量依存性が見受けられた.さらに,これらの判別式を4週間よりも短期(2週,1週,3日,単回投与後24時間,6時間)における発現データに適用した結果,少なくとも2週間における判別が可能であった.判別に用いたプローブセットには,脂肪蓄積への関与がうかがわれるいくつかの遺伝子が含まれていた.以上の結果より,TG-GATEsを用いて,薬物性の肝脂肪化の診断および予測マーカーの抽出が可能であることが示された.