抄録
【目的】海外にはキラル医薬品開発に関するガイドライン(FDA:1992年、EEC:1994年、カナダ:2000年)があるが、我国では厚労省医薬局審査管理課事務連絡(平成14年1月28日)に留まっている。我国におけるキラル医薬品開発の今後の方向性を探り、より効率的な開発に資することを目的として、既に承認済みの医薬品の申請関連資料を調査した。
【方法】日本において、平成11年9月から20年10月までに承認取得した医薬品を対象とし、審査報告書、申請資料、添付文書を基に、非臨床試験の実施状況等を調査した。
【結果】調査対象期間に418品目の医薬品が承認され、そのうち220品目がキラル医薬品であり、単一光学異性体医薬品は179品目、ラセミ医薬品は41品目であった。承認医薬品に占めるキラル医薬品の年次推移に一定の変動はみられなかった。新有効成分含有医薬品では、年ごとに単一光学異性体医薬品に比してラセミ医薬品の割合が減る傾向がみられた。新有効成分含有医薬品として承認された単一光学異性体医薬品74品目およびラセミ医薬品17品目(平成19、20年除く)の非臨床試験実施状況を示す。単一光学異性体医薬品74品目で、他方の光学異性体について薬理、毒性、動態試験および生体内キラル変換の試験の実施はそれぞれ17、10、0および13品目であった。ラセミ医薬品17品目で、それぞれの光学異性体について薬理、毒性、動態試験および生体内キラル変換の試験の実施はそれぞれ15、10、13および10品目であった。
【結論】単一光学異性体では、他方の異性体の試験実施割合は少なく、実施は不純物として含有の場合などに限られていた。ラセミ医薬品は多くでラセミ体の試験以外に、各異性体の試験が実施され、ラセミ体で開発することの根拠とされていた。また、年次推移から、ラセミ医薬品が減少し、単一光学異性体での開発が主となる傾向がみられた。