抄録
【目的】
ICHではS2ガイドラインの改定作業が進行中であり,in vivo遺伝毒性試験(小核試験,コメットアッセイ)を一般毒性試験の一試験項目として実施する組込法の検討がなされている.一般毒性試験本体への影響等を考慮して,組込法ではTK動物の利用が考えられており,総合的な毒性評価,動物愛護,コスト削減等の面におけるメリットは極めて大きい.しかしながら,TK採血が遺伝毒性試験結果にどのような影響を及ぼすか詳細な報告は無く,今回これらに関する検討を行った.
【方法】
実験A
TK採血群及び非TK採血群を設定し,無処置群における小核誘発率へのTK採血の影響を検討した.動物はラット,雄(6週)を使用し,TK採血は鎖骨下静脈より,仮想1回目投与直前及び0.5,2,4,7,24h後,0.3mL/pointずつ行った.その後,仮想2回目投与後24hに末梢血,48hに末梢血,大腿骨,肝臓,脾臓を採取,小核の評価及び病理・血液学的検査を行った.
実験B
実験Aと同様の方法で,既知の遺伝毒性物質(CP)を投与,TK採血が遺伝毒性物質の評価に与える影響を検討した(5 and 10mg/kg,2回(24h間隔),p.o.).
【結果及び結論】
無処置群では,TK採血により造血能亢進が認められたが,小核誘発率への影響は認められなかった.一方,CP投与群では,TK採血により造血能亢進及び小核誘発率の増加が認められた.これは採血による貧血→造血能亢進により,遺伝毒性物質に対する感受性も亢進したと考えられた.造血能亢進及び貧血を示唆する検査結果は,血液及び病理組織学的検査においても確認された.これらの結果から,TK動物を利用した小核試験の一般毒性試験への組込は,造血能亢進により遺伝毒性物質への感度がやや高まるものの,遺伝毒性物質の評価は十分に可能であり,総合的な毒性評価,動物愛護,コスト削減等に貢献するものと考えた.