抄録
心室の再分極過程は心電図上ではQT間隔に相当し,薬剤誘発性のQT間隔の延長は致死性の心室頻拍(TdP)の要因の一つと考えられて
いる。安全性薬理試験での活動電位試験では,心室の再分極過程である活動電位持続時間(APD)を測定している。従来,活動電位試験は,
扱いやすさに優れており,且つ背景データも豊富なモルモットの摘出乳頭筋を用いることが多い。また,生体由来の組織を用いるため,
心室の再分極過程に必要な全てのチャネルが存在し,薬剤のNa,Ca,Kの各イオンチャネルに対しての作用を推測することが可能で
ある。しかし,薬物誘発のQT延長に関して,モルモット(GP)-ヒト間での種差により反応性が異なる可能性は十分考えられる。そこで,
ヒトにより近縁なカニクイザル(CM)の乳頭筋を用いて活動電位波形を取得し,更にCM-GP間での薬物に対するAPD延長作用の反応
性を比較することを試みた。
方法:CMの右心室より摘出した乳頭筋を灌流槽内に固定し,その後,灌流槽下部に固定した刺激電極で乳頭筋を電気刺激した。その後,
微小ガラス電極を用いて乳頭筋細胞内に刺入し,活動電位波形を取得した。測定時の温度は37℃,刺激頻度は1Hzを基本とした。また,
薬剤の適用時間は30分間とした。
結果:CM乳頭筋の活動電位波形はGPに比べAPDが長く,温度・刺激頻度の変化に対しての応答性も得られた。また,Kチャネル阻害
作用を持つ薬剤であるSotalo(l 30μmol/L)およびE-4031(0.1μmol/L)の適用により,CM乳頭筋ではGP以上のAPDの延長作用がみ
られた。
考察:GP-CM種差により薬物に対する感受性が異なることが示唆された。今後,Na,Caチャネル等に対する反応性を比較・検討する
ことでヒトに近縁なCM乳頭筋を用いて薬剤の安全性を評価できると考えられた。