抄録
核内受容体PXRおよびCARは,薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの遺伝子発現に中心的に働く異物応答性の転写因子である。こ
れら受容体の活性化は生体の解毒・排泄能を亢進することから,両者は一般に薬剤性肝障害などの防御因子として捉えられている。一
方で,PXRやCARの活性化物質のいくつかは,齧歯動物において肝肥大や肝発癌,あるいは血中脂質レベルの変動を引き起こすこと
も知られている。しかし,PXRやCARの活性化物質の種類には大きな種差があり,齧歯動物においてこれら受容体を活性化する物質
がヒトの受容体を活性化しないことが多い。したがって,齧歯動物で認められたPXRやCARを介した作用は必ずしもヒトで認められ
るとは限らない。本研究では,化学物質のヒトにおける安全性の予測法の開発に向けて,齧歯動物では毒性試験が行なわれているがヒ
トでの作用が不明である化審法既存化学物質50種類について,ヒトPXR(hPXR)およびラットPXR(rPXR)活性化プロファイルを比較
検討した。解析にはCYP3A4レポーター遺伝子を安定的に発現させたヒト肝癌由来HepG2細胞株および同レポーター遺伝子を一過的
に発現させたラット肝癌由来H4IIE細胞を用いた。その結果,1,3,10または30μMの濃度で,hPXR活性化薬rifampicin(10μM)
またはrPXR活性化物質pregnenolone 16α-carbonitrile(10μM)の50%以上の強さのhPXRまたはrPXR活性化作用を示した物質が
それぞれ11物質および4物質見出された。これらのうち両PXRを共に活性化したのは1物質のみであった。なお,脂溶性や分子量と活
性化能との間には関連は認められなかった。以上の結果より,化審法既存化学物質には,hPXR活性化作用を示す物質が多く含まれる
こと,また,これまでに報告されていたPXR活性化物質と同様に,多くは種特異的に活性化作用を示すことが示された。