抄録
【目的】Diheptyl Phthalate(DHP)はフタル酸エステルの一種で,塩化ビニル樹脂の可塑剤としてレザー,フィルム,シート,壁紙,雑
貨および塗料などに広く使用されている。DHPは,peroxisome proliferator-activated receptor alpha(PPARα)アゴニストに分類
され,我々は昨年の本学会において,26週間反復経口投与により肝臓に前癌病変を生じることを明らかにした。一方,in vitro遺伝毒
性試験であるエームスおよび染色体異常試験では,DHPの遺伝毒性は認められていない。今回,in vivo試験でのDHPの遺伝毒性を検
討するため,ラットに経口投与を行い,骨髄,肝臓及び胃の小核出現頻度を検討して投与期間および検査器官との関連を検討した。
【方法】4週齢のF344/DuCrlCrlj雄ラット4匹に,DHPの2500および5000mg/kgの用量を24時間間隔で2回あるいは1週間反復経口投
与した。最終投与後に骨髄,肝臓及び胃をFBS,コラゲナーゼあるいはトリプシン処理して細胞を分離し,塗抹標本を作製した。各標
本を蛍光顕微鏡下で観察して,陰性対照群及び陽性対照(DEN,MNNG,CP)群と小核の出現頻度を比較した。
【結果及び結論】DHPの2回投与では,骨髄,肝臓及び胃のいずれにおいても小核の誘発率に対照群と有意差は認められなかった。反復
投与では,肝臓に投与量と関連した有意な小核出現率の増加が認められた。骨髄及び胃には小核の出現率に対照群と差は認められなかっ
た。通常,in vivo小核試験では骨髄が検査されるが,本研究においてDHPの遺伝毒性が骨髄では確認されず,肝臓で確認された。以
上の結果から,遺伝毒性の検出には投与量のみならず,被験物質の標的臓器を考慮した検査器官及び投与回数を適切に選択することが
重要であると考えられた。