抄録
【背景と目的】ワルファリンをはじめとするクマリン系殺鼠剤は,血液凝固因子を活性化するために必要なビタミンKエポキシド還元酵
素(VKOR)を阻害することで,血液凝固不全を招き失血死をもたらす。ニワトリなど家禽を用いた毒性試験ではワルファリンの半数致
死量がげっ歯類に比較して顕著に高いため(ラット 1.65mg/kg,ニワトリ 942mg/kg),これまで鳥類は感受性が低いと考えられてきた。
しかし,実際にはクマリン系殺鼠剤による野鳥の中毒死が多数報告されている。そこで,本研究では,クマリン系殺鼠剤の感受性を決
定すると考えられる1)鳥類のワルファリン代謝能,および,2)VKOR活性とワルファリンによる阻害,の種差を明らかにすることを目
的とした。
【方法】ニワトリ(白色レグホン,4~5週齢,オス),ダチョウ(成鳥,オス),シロフクロウ(3才と12才の2個体,オス),アメリカワシ
ミミズク(2才,オス)と,対照としてWistarラット(10週齢,オス)を用いた。これらの各鳥類の肝ミクロソームを調製し,ビタミンK
エポキシド活性および,ワルファリンによる阻害率を測定した。また,ワルファリンを基質としてその水酸化活性を調べた。
【結果と考察】今回用いた鳥類の中で,ニワトリが最も高いワルファリン水酸化活性をもつことが明らかになった。ラットに比して
VKORのワルファリンによる阻害率も低く,これらがニワトリのワルファリン感受性が非常に低いことの原因であると考えられた。ダ
チョウにおいてもラットに比べて高い水酸化活性が見られたが(3倍),フクロウ目ではラットの1/8,ニワトリの1/60と非常に低い値
を示した。また,ダチョウのVKORはワルファリンによって顕著な阻害を受けることも明らかとなった。今回の結果からワルファリン
感受性決定要因には鳥類間で大きな種差が存在することが明らかになった。