抄録
マイクロRNAは約20bpの小さなRNAであり,たった1種類で数百種類のmRNAを制御し,mRNAの安定性及びタンパク質発現の制御
を行っている。近年,肝毒性や発ガンに関与するマイクロRNAの研究が行われ,組織中だけでなく,血中に漏洩したマイクロRNAの
存在も確認されており,バイオマーカーとしての応用も期待されている。発生生殖の分野では,精子形成,精巣成熟に関与するマイク
ロRNAが報告されているが,精巣毒性におけるマイクロRNA発現への影響に関する研究はほとんどない。本研究では,精巣毒性に関
与するマイクロRNAを検討するため,精巣毒性を惹起するエチレングリコールモノメチルエーテル(EGME)を50及び2000mg/kgを
ラットに単回経口投与した。その後,投与6及び24時間後に発現変動するマイクロRNAを,マイクロアレイ法にて網羅的に検討し,特
定のマイクロRNA発現を定量PCR法にて確認した。その結果,EGME 2000mg/kg 投与6または24時間群で対照群に比し,miR188,
125a-3p,760-5pの発現は2~10倍増加し,miR449a, 92aは半減した。TargetScanによる解析から,これらのマイクロRNAは精
子形成に関与するInhibinB,Notch1,Caspase,BcL2などを制御することが予想された。EGMEの精巣毒性にはアポトーシスの関
与が知られているが,InhibinBのようなホルモンやNotch1シグナルを介した精子形成異常のメカニズムへの影響もあると示唆された。
また,発現変動したマイクロRNAの中には,精巣に特異的なものあり,精巣毒性における新たなメカニズム探索のツールとして,さら
に精巣毒性評価のためのバイオマーカーへの応用が期待される結果となった。これらの知見を踏まえ,精巣毒性におけるmiRNAの役
割を議論したい。