抄録
革新的な素材として期待されるナノマテリアルは、製造から包装に至る過程での吸入曝露が危惧され、そのリスク評価は始まったばかりである。我々はナノサイズ二酸化チタニウム(nTiO2)の気管内噴霧による肺発がんプロモーション作用とその機序を明らかにした。本研究では、nTiO2と同様に化粧品に用いられているナノサイズ酸化亜鉛粒子(nZnO)の気管内噴霧による肺の毒性病理学的変化を、我々の開発したナノ粒子短期リスク評価モデルを用いて検索した。
【方法と結果】6週齢の雌のc-Ha-ras TGラットに肺発がん物質DHPNを2週間飲水投与し、nZnOを250ppm、500ppmの濃度で第4から16週まで計7回気管内噴霧し屠殺剖検した。溶媒群の肺には、肺胞過形成および肺腺腫がみられたが、nZnO噴霧群ではこれらに加え、索状の線維化を伴う間質性肺炎が観察された。過形成の平均発生個数は減少傾向が見られたが、腺腫を合わせた腫瘍性病変の平均発生個数は有意な差は見られなかった。次にAzan染色を行い、線維化の程度を定量的に解析した結果、肺の1cm2あたりの線維化巣の面積は、対照群の1.7mm2に対し、250ppm群で5.6mm2, 500ppm群で8.0mm2と有意に上昇し、濃度依存性も見られた。またnZnO単独噴霧群でも線維化巣が観察された。さらに、ZnOを初代培養肺胞マクロファージに貪食させた培養上清は、肺線維芽細胞CCD34の細胞増殖を促進したが、肺がん細胞株A549, 中皮腫細胞株Meso1の増殖を促進しなかった。
【まとめ】酸化亜鉛の気管内噴霧により、肺発がん促進作用はほとんどみられず、間質性肺炎が発生することが明らかとなった。また、我々のナノ粒子吸入曝露短期リスク評価法は、発がん性のみならず、肺線維症のリスクも評価できることが明らかとなった。現在、発生メカニズムについて検索を進めている。