抄録
肝臓の胆汁酸レベルの上昇は肝胆道系の障害と密接に関連している。我々はマウスに抗菌薬を単独あるいは胆汁酸と併用投与すると対象群、胆汁酸単独投与群と比べて肝臓の胆汁酸レベルと血清中の肝障害マーカーが増加することを見いだした。複数種の抗菌薬で同様な結果が得られることより腸内細菌の減少が肝胆汁酸レベルの増加に関連すると考えられた。またこの原因の一つとして肝胆汁酸合成の亢進が考えられた。腸内細菌は胆汁酸の脱アミノ酸抱合や脱水酸化を触媒し、生成した腸内細菌代謝型胆汁酸(脱アミノ酸抱合型胆汁酸、二次胆汁酸)が回腸fibroblast growth factor (FGF)15発現を誘導して胆汁酸合成の律速酵素であるcholesterol 7α-hydroxylase (CYP7A1)の発現を抑制している可能性が有る。そこで本研究ではCYP7A1の発現抑制因子である回腸FGF15発現誘導に関与する腸内細菌代謝型胆汁酸の同定を試み、個体レベルで消化管胆汁酸組成と回腸FGF15、肝CYP7A1発現の関連について調べた。
C57BL/6N雄性マウスに3日間ampicillin (ABPC) 100 mg/kgを投与し最終投与時に胆汁酸500 mg/kgあるいは100 mg/kgを投与し、3時間後に解剖した。また胆汁酸単独投与実験も実施した。
ABPC投与によりコントロール群の10%以下に減少した回腸Fgf15 mRNAレベルはABPC投与で消化管管腔内から消失するcholic acid (CA)の併用でコントロール群の4倍まで増加したが、他の主要一次胆汁酸のtauro-CA (TCA)、tauro β-muricholic acid (TβMCA)、βMCA併用では増加しなかった。二次胆汁酸併用ではTDCAのみでコントロール群レベルまでFgf15 mRNAレベルが回復した。ABPC投与で増加した肝臓のCyp7a1 mRNAレベルは、CAの併用で有意に減少したが、TCAでは減少しなかった。単独投与実験ではCAが消化管管腔内に大量に検出されるCAあるいはTCA投与群でFgf15 mRNAレベルの顕著な増加とCyp7a1の発現低下が認められた。
以上の結果より腸内細菌によるTCAのCAへの脱アミノ酸抱合は回腸FGF15発現誘導に関与し、肝臓の胆汁酸合成を負に調節していることが示唆された。腸内細菌に依存する消化管内CA量の減少は胆汁酸合成を亢進し肝内胆汁酸 を上昇させると考えられる。