日本トキシコロジー学会学術年会
第38回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: IL
会議情報

年会長招待講演
トキシコロジーから見た化学発がん
*白井 智之
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

現在国民の3人に1人が“がん”で亡くなり、近い将来2人に1人ががんで亡くなると予想される時代を迎えている。“がん”の原因は細胞の増殖を司る遺伝子の異常に基づくが、その異常のもととなる原因は極めて多様と考えられている。“がん”は恐竜にもあったことが化石から判明しており、多細胞細胞には避けられない疾病である。がんの原因を最初に示唆したのは有能なロンドンの病院に勤務していたパーシバール・ポット外科医師の最初の職業癌の報告であった。煙突掃除人に特有の陰嚢皮膚癌を正確な観察力によって原因は煙突のススであることを指摘した。化学発がんの画期的な第一歩の研究といえる。ススへの暴露を極力さけること、身体を清潔に保つことによって職業癌としての陰嚢癌が姿を消した。これはがんの最初の一次予防の成功例でしょう。その後、世界で最初の人工的な化学物質によるがんの誘発が山際勝三郎と市川厚一の偉業によりなされたのを皮切りに、各種の職業癌や発がん物質が発見され、発がん物質の化学構造に基づいた分類や発がんメカニズムの解明に向けての研究が推進された。多くの発がん物質は代謝活性化を必要とし、生体細胞のDNAを修飾すること、その活性化酵素と解毒酵素のバランスや酵素活性の強さなど発がん標的性とともに発がん性の種差、性差、系統差などに現れること、発がんに関わる内因性と外因性の大きな2つの要因が関わっていること、自然界にも多くの発がん物質が存在することなどが、明らかとなった。動物に対して発がん性が必ずしもヒトに対して当てはまらないなど発がん性リスク評価にも重要な進展がなされた。多種の化学物質相互作用が発がんにも当てはまることも明らかになっている。発がん過程は多段階からなり、それぞれに関わる化学物質の特徴も明らかにされてきた。本講演では化学発がん物質発見の歴史から化学発がん過程について最新の知見を織り交ぜて講演したい。

著者関連情報
© 2011 日本毒性学会
次の記事
feedback
Top