抄録
【目的】22塩基程度のnon-coding RNAであるmicroRNAs (miRNAs) は血中に安定的に存在し、癌や糖尿病などの病態を反映するバイオマーカーとなり得ることで注目を集めている。我々は、様々な肝障害モデルラットを用いた検討により、miRNAsが肝障害の病型を区別し、診断に利用可能な高感度バイオマーカーとなることを明らかにし、昨年の年会にて報告した。本研究では、様々なタイプの肝障害患者を対象として血中miRNAsの発現プロファイルを解析し、ヒトにおいても血中miRNAsが病型を区別できるバイオマーカーとなり得るか明らかにすることを目的とした。
【方法】B型肝炎、C型肝炎、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎および薬物性肝障害 (肝細胞障害型および胆汁うっ滞型) の患者血清よりRNAを精製し、TaqMan microRNA array (667 miRNAs) を用いてmiRNAsの発現量を網羅的に解析した。
【結果および考察】血中miRNAs発現の階層的クラスタリング解析の結果、薬物性肝障害とそれ以外の肝障害でそれぞれ発現プロファイルが大きく区分された。さらにウイルス性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎と、それぞれの疾患ごとに分類され、各肝障害に特徴的に高値または低値を示すmiRNAが存在することを明らかにした。従って、血中miRNAsはヒトにおいても肝障害の検出および病型の分類に利用可能なバイオマーカーとなることが示された。さらに、肝障害患者と肝障害モデルラットの血中miRNAs発現変動の比較により、薬物性肝障害によって同様の発現変動を示す共通のmiRNAを見出した。従って、血中miRNAsは臨床診断のみならず、医薬品開発における臨床試験および非臨床試験での肝障害の検知にも利用できる可能性が考えられた。