抄録
【背景】DMACは繊維、樹脂の溶剤、医薬品関係の反応溶剤として工業的に広く使用されている。経皮および経気道的に体内に取り込まれ、皮膚炎や肝機能障害を引き起こす。本研究ではDMAC曝露による肝障害の発生を確認するとともに、その発症メカニズムを解明することを目的とする。【方法】8週齢の雄マウス(ICR)に0, 10, 50, 250, 500ppmのDMACを、6時間/日、連続2週間吸入曝露させた。曝露終了後、麻酔剤過吸入による安楽死を施したのち、肝臓、血液を採取した。肝臓サンプルを用い、炎症に関連する遺伝子を中心にmRNAを定量した。また、肝臓の一部はHE染色を行い、病理観察を行った。血漿を用いALT, ASTの測定を行った。【結果・考察】2週間のDMAC吸入曝露群の肝臓の病理組織標本では、DMAC濃度依存的な組織変化が認められた。250ppm、500ppmの曝露群では肝細胞の肥大化が中心静脈付近にみられ、500ppmの曝露群では細胞壊死も観察された。肝機能障害の指標となる血漿ALT、ASTは、500ppmの曝露群で対照群に比べ有意に上昇し、この群における病理変化と一致していた。また、炎症に関わる遺伝子であるNFκB p50、p65、p52-mRNAやTNFα-mRNAは曝露群で有意に上昇し、p65-mRNAについては50ppm以上の曝露群でコントロール群に比べ有意に上昇していた。従って、DMAC曝露による肝障害において炎症反応が関与していることを示唆した。更に、多くの有機溶剤の代謝に関わるCYP2E1-mRNAがDMAC曝露により有意に上昇した。以上の結果から、2週間のDMAC吸入ばく露が肝障害もたらすことが明らかとなった。今後、DMAC曝露による肝臓での炎症に関わるシグナル伝達因子について解析を深める予定である。