抄録
カーボンナノチューブ(CNT)はその針状の形態が、アスベストと酷似しており、CNTを大量に吸入するとアスベストと同様に肺がん、肺線維症、中皮腫を発症するのではないかと危惧されている。我々は、ナノ粒子二酸化チタニウム(TiO2)を気管内噴霧した際に、TiO2を貪食したマクロファージから分泌されるMIP1αが細胞の増殖を促進することを報告している。したがって、気管内噴霧による肺発がん促進機構には、ナノマテリアルを貪食したマクロファージからの因子が、肺胞上皮の細胞増殖を促進すると考えられた。本研究においては、アスベスト、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、2種の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)がマクロファージを介する肺癌細胞増殖促進作用を有するか検討した。陽性対照としてアスベストであるクロシドライトをラットに8日間に5回の気管内噴霧を行いた検討では、肺内に吸入されたクロシドライトはマクロファージに貪食されていた。同様にSWCNT、MWCNTを肺内に噴霧すると、いずれも肺の炎症がみられ、マクロファージに貪食されていた。酸化ストレスの指標である8OHdGレベルは、SWCNT、1種のMWCNTにより有意に上昇したが、クロシドライトともう1種のMWCNTでは有意な上昇はみられなかった。また、クロシドライトを貪食したマクロファージの培養上清が、肺癌細胞株であるA549細胞の増殖を促進した。SWCNT、WMCNTに曝露されたマクロファージの培養上清は、A549細胞の有意な細胞増殖亢進作用を示した。したがって、SWCNT、MWCNTはTiO2やクロシドライトと同様に肺胞マクロファージにより貪食され、SWCNT、MWCNTを貪食したマクロファージの産生する因子が細胞増殖促進作用を示すと考えられた。