抄録
ナノマテリアル(NM)は、従来のサブミクロンサイズ(100nm)以上の素材には無い革新的機能を有し、食品・医薬品等、直接ヒトに適用する分野で汎用されている。一方で、NMが未知の生体影響を示してしまうことが懸念され、NMの安全性評価が地球規模で推進されている。本観点から、我々はNMの生殖発生毒性を他に先駆けて検討しており、昨年の本会においても、過剰量を妊娠マウスに静脈内投与したハザード評価ではあるものの、直径70nmの非晶質ナノシリカ(nSP70)が低体重仔の出生確率を増加させることを報告した。ヒトにおいても、低体重児は神経学的障害を併発するリスクが高いことが知られていることを鑑みると、NMの胎仔期曝露による次世代影響の評価は最重要課題の一つと位置づけられる。そこで本発表では、NMの次世代影響評価を最終目標に、nSP70の胎仔期曝露が出生仔に与えるハザード同定を試みた。妊娠マウスに過剰量のnSP70を静脈内投与した後、出生した低体重仔(nSP群)の体重を10週齢時まで経週的に測定した。その結果、nSP群ではコントロール群に比べ、出生時だけでなく10週齢時まで低体重を示すこと、また白血球細胞等が増加することなどが判明した。以上の知見は、NMの安全性確保や安全なNMの開発と言った観点から、胎児や乳幼児といった脆弱なステージ期に、微量であっても長期間、NMに曝露された場合には、蓄積性や薬物間相互作用、代謝活性化・不活性化などを考慮する必要があるものの、若年性メタボリックシンドロームやアトピーの発症との関連性を解明することの重要性を示唆するものと考えられた。今後は、上記検討に加え、行動毒性学的解析などを組み合わせ、なおかつ、実際の曝露経路・量を加味した検討を実施することで、NMの安全使用に向けた基礎情報等を収集していく予定である。