抄録
N-methyl-D-aspartate (NMDA) 受容体拮抗薬の一種であるMK801は、神経細胞の障害性変化に対する保護作用を有している一方で、ラットのretrosplenial cortex (RS) やposterior cingulate cortexなどの特定の領域において神経細胞の空胞化や壊死を引き起こすことも知られている。MK801に誘発される神経細胞の空胞化は、抗コリン作動薬で抑制されることが明らかとなっているが、壊死に対する効果は検討されていない。そこで今回MK801誘発神経細胞死に対する抗コリン作動薬の抑制効果を検討した。雌ラットにMK801を単回投与あるいはMK801と抗コリン作動薬であるスコポラミンを単回併用投与した際のRS部位における組織学的変化を継時的に比較した。その結果、MK801単独投与では、投与4時間後ではRS部に神経細胞の空胞化・壊死が認められ、24時間後には空胞化は消失し、壊死のみが残存していた。一方、スコポラミンの併用投与により、MK801投与4時間後の空胞化・壊死はほぼ消失し、24時間後の壊死も抑制された。このことから、MK801投与4時間後までに起こる変化がその後の壊死につながっていることが示唆された。
中枢毒性、特に神経細胞死のバイオマーカーを検索するのは困難である。臨床では中枢神経系の機能の評価、高次脳機能の解明にPositron emission tomography(PET)がよく用いられているので、PETが中枢毒性のバイオマーカーとしても有用なツールに成り得る可能性がある。そこで、MK801投与後にフルオロデオキシグルコース(FDG)を投与し、MK801投与後に起こる変化をPETを用いて検討した。その結果、神経細胞の空胞化・壊死が起こる部位でFDGの集積を確認することが出来、PETが毒性にとっても有用なツールであることが判明した。