抄録
心重量増加は一般毒性試験においてしばしばみられる所見であり、ヒトにおいて心肥大や高血圧の発症などに関連する可能性がある。しかし心重量増加が病理組織検査や生化学検査において変化を伴っていない場合はその機序を推察できず、毒性学的意義の考察は困難である。心エコー検査は心臓の機能的・形態的な変化を経時的・非侵襲的に評価でき、上述のようなケースにおいて機序解明に有用である他、ヒトの診療現場においても常用されるために外挿性にも優れている。今回我々は実験的に心肥大状態を再現し、形態・機能変化の心エコー検査による検出可否について検討した。心肥大モデル動物を作製するため、各群9-10例の雄SDラットにアルドステロン(0[無処置対照群、上水道水飲水]、0.375[低用量群]あるいは0.75ug/kg/h[高用量群])を浸透圧ポンプを用いて2あるいは4週間皮下持続投与した。実薬投与群については同時に生理食塩液を飲水させた。投与終了翌日に採血後剖検し、心重量測定および臨床病理検査を行った。また4週投与群については投与期間中、週1回心エコー検査(左心室Mモード、肺動脈・大動脈・僧帽弁部のパルスドプラ)を行い、経時的変化を観察した。結果、投与2週では高用量群の心絶対重量が、4週では低・高用量両群の心絶対および相対重量が対照群と比較して高値となり、4週の高用量群では臨床病理検査におけるpro-ANPの増加を伴っていた。心エコー検査では、形態変化としては心室壁肥厚を示唆する変化が、機能面では左室流入血流増加を示唆する変化が、それぞれ概ね用量依存的に認められた。以上の結果から、ラットにおけるアルドステロン誘発性心肥大の発現に伴う機能・形態の変化を心エコー検査によって評価可能であることが確認され、一般毒性試験において心重量変化が見られた際の機序解明ツールとして有用である可能性が示された。